「夫の判断能力が落ちたら、預金はどうなるのでしょうか」──。そう不安を口にしたのは、60代のSさんです。夫は十数年前からパーキンソン病を患い、現在は心不全の治療も続けています。今後、認知機能が低下した場合の財産管理や、万が一の際の相続手続きをどう備えるべきか。Sさんは「家族信託」も検討していましたが、夫婦の資産状況を整理すると、別の方法が適していました。相続実務士・曽根惠子氏が、実例をもとに解説します。
夫の病気が進行…「この先、私1人で財産を守れるだろうか」
今回の相談者であるSさんは、60代の女性です。夫の今後の財産管理や介護、万が一の際の相続手続きについて不安を抱え、ご夫婦で相談に来られました。
Sさん夫妻については、以前にも不動産売却などのサポートをしています。その際、戸建て住宅からバリアフリーのマンションへの住み替えも無事に完了しました。現在は新しい住まいでの生活にも慣れ、落ち着いて暮らしています。Sさんからは、これまでのサポートについて「大変心強かった」との言葉もいただきました。
一方、夫は十数年前からパーキンソン病を患っており、現在は症状がかなり進行しています。約3年前には心筋梗塞で倒れ、現在も心不全の治療を続けています。体調の変動も大きく、一時は回復したものの再入院を繰り返すなど、日常的な看護や介護が必要な状態です。
Sさんが特に心配していたのが、今後、夫の認知機能や判断能力が低下した場合の財産管理でした。
「夫の体調がさらに悪化したとき、私1人で財産を守り、施設への入所や医療費の支払いを滞りなく進められるだろうか」「万が一のとき、預金を自由に動かせなくなり、生活費に困ることはないだろうか」
そうした不安を抱えていたのです。
不動産はすでに妻名義、夫の財産は預貯金が中心
自宅を住み替えた際には、居住用不動産の配偶者控除の特例を活用しました。
夫名義だった自宅を売却したあと、新たに購入したマンションはSさん名義としたため、現在、夫が所有する財産は主に預貯金などの金融資産となっています。収入としては公的年金があります。
今後、介護施設への入所や医療費などが必要になる可能性もあるため、一定額の預金はできるだけ手をつけずに残しておきたいという希望もありました。
また、夫には認知している婚外子がいます。婚外子が成人するまでは養育費を支払い、その後、一括精算した経緯があります。過去にはその手続きについても当方でサポートしており、養育費については今後請求しない旨の合意も交わしていました。
しかし、養育費の問題が整理されていることと、将来の相続手続きは別の問題です。夫が亡くなった場合の相続人は、妻であるSさん、娘、そして認知している婚外子の3人となります。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続のプロが解説!人生100年時代「生前対策」のアドバイス事例