「公正証書遺言」と「資産の組み換え」を軸にした相続対策
そこで、ご家族の心理的な負担やコストも考慮し、大がかりな家族信託ではなく、「公正証書遺言」と「資産の組み換え」を中心とした対策を提案しました。
提案①:「公正証書遺言」+「使用貸借の合意書」を作成
まず、生前に財産の名義を移す家族信託ではなく、Oさんにとって心理的な抵抗の少ない公正証書遺言を作成します。
基本的には、全財産をきょうだい3人に3分の1ずつ相続させる内容とし、公平性を保つことにしました。
一方、次男の自宅が建っている土地については、生前のうちに次男との間で、「将来、建物を取り壊すことになった場合には、土地を更地にして無償で所有者へ返還する」という内容の使用貸借に関する合意書を作成します。
口約束ではなく書面にしておくことで、将来、土地を相続した人との間でトラブルになるリスクを減らす狙いです。
提案②:アパートと土地を売却し、相続しやすい資産へ組み換える
もう1つの提案が、不動産の組み換えです。
10年前には「売らないほうがいい」と言われていた不動産についても、現在の時価や税負担を改めて比較し、売却を検討することにしました。
時価が上昇しているアパートと土地を独自のオークション形式で一括売却し、7,000万円以上での現金化を目指します。
ただし、売却代金をそのまま現金で保有すると、相続時にはその金額がそのまま評価されます。
そこで、売却代金を「都心の区分所有マンション」や「不動産小口化商品」などへ組み換えることを提案しました。
こうした不動産は、条件によっては相続税評価額を時価より低く抑えられる可能性があります。また、資産を小口化しておけば、子ども3人にそれぞれ分けやすくなります。
「節税」と「分けやすさ」の両方を考えた資産構成へ変えていくことが目的です。
「10年間の霧が晴れたよう」 子どもたちに説明できる相続プランが完成
相続税や不動産売却時の税負担について具体的なシミュレーションを確認したOさんは、「10年間の霧が晴れたようです」と安心した表情を見せました。
・遺言執行者には長男を指定
海外に住む長女の負担を減らすため、実務を担いやすい長男を「遺言執行者」に指定し、公正証書遺言の原案を作成しました。
・過去の資金援助も踏まえて財産の分け方を整理
次男への過去の資金援助も含めて家族内の状況を整理し、長男・次男夫婦にも説明できる相続プランを組み立てました。
また、万が一、相続時に金銭での調整が必要になった場合にも対応できるよう、組み換え後の資産や現金の配置も検討しました。
・不動産の売却に向けた実務を開始
建物や土地の価値を適切に評価してくれる買い手を探すため、当社の専門ネットワークを活用し、売却に向けた実務もスタートしました。
Oさんは、「これなら、近いうちに子どもたち全員を集めて、胸を張って話すことができるわ」と話し、安心して手続きを進めることができました。
相続実務士の視点
今回の事例で重要なのは、10年前には適切だったかもしれない「売らないほうがいい」という助言が、その後の税制や不動産価格の変化によって、現在では必ずしも最適な選択とはいえなくなっていたことです。
税理士は税務、司法書士は登記など、それぞれの専門分野があります。一方、相続対策では、1つの手続きだけを考えるのではなく、家族関係や不動産の時価、税負担、財産の分けやすさまで含めて考える必要があります。
今回のように、まとまった不動産をそのまま残すと分けにくい場合には、現在の時価を見ながら売却し、相続税評価を抑えやすく、かつ分けやすい資産へ組み換えるという方法もあります。
大切なのは、「今ある財産をそのまま残すこと」ではなく、「子どもたちが将来、無理なく受け継げる形にしておくこと」です。
「子どもたちは仲が良いから、相続が起きても話し合って決めてくれるだろう」と考える親御さんは少なくありません。
しかし、相続が発生したあとに一から財産の分け方を話し合うこと自体が、子どもたちにとって大きな負担になることがあります。さらに、過去の援助やそれぞれの配偶者の意見などが加われば、それまで良好だったきょうだい関係が変わることもあります。
だからこそ、親が元気で判断能力があるうちに、「誰に、何を、どのように残すのか」を整理し、遺言として形にしておくことが重要です。
それは財産を残すことだけではなく、子どもたちに余計な争いや負担を残さないための準備でもあるのです。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
