(※写真はイメージです/PIXTA)

「自分が亡くなったとき、財産が実の姉妹に渡ることだけは避けたい」──。そう話すのは、養子縁組をしている60歳の独身女性です。20年前、財産を養母へ遺贈する公正証書遺言を作成しましたが、養母は現在94歳。養母が先に亡くなれば、当時の遺言では本人の希望を実現できない可能性があります。長年交流のない姉妹へ財産を渡さず、社会のために役立てるには、どのような準備が必要なのでしょうか。相続実務士・曽根惠子氏が、実例をもとに解説します。

20年前に作った遺言書を見直したい

20年前に公正証書遺言を作成されたSさん(60歳・女性)が、あらためて相談に来られました。Sさんは2026年3月に定年退職され、現在は再雇用で勤務を続けています。結婚歴はなく、お子さんもいません。

 

平成19年に当社が証人業務を担当し、公正証書遺言を作成されています。当時、Sさんは40歳。遺言書を作るには若い年代ですので、とても印象に残っているお客さまでした。

 

遺言書の内容は、養母へ財産を遺贈するものでした。しかし、当時、受遺者として指定した養母は現在94歳。高齢となったことから、「今の状況に合わせて遺言書を見直したい」と相談に来られたのでした。

長年交流のない姉妹に財産を渡したくない

Sさんは養子縁組をしており、養親との関係は良好です。一方で、実親側には双子の姉と5歳下の妹がいますが、長年交流はなく、現在も連絡を取っていません。

 

「自分が亡くなったとき、財産が戸籍上の姉妹に渡ることだけは避けたい」

 

これが前回と今回の相談の出発点でした。

 

養母の相続には大きな問題はない

Sさんは現在、94歳の養母と同居しています。自宅は工場兼住宅で、持分は養母が10分の9、Sさんが10分の1です。

 

概算評価額は次のとおりです。

・土地 約2,100万円
・建物 約100万円
・不動産合計 約2,200万円

 

また、養母名義の資産として、

・預貯金 約4,300万円
・生命保険 約400万円

があります。

 

養母に相続が発生した場合、法定相続人はSさんのみです。財産総額は約6,900万円となり、概算の相続税額は約330万円程度と試算されました。さらに、Sさんは養母と同居しているため、小規模宅地等の特例の適用が見込まれます。

 

その結果、土地評価額を80%減額でき、相続税は約200万円程度まで軽減される可能性があります。

 

納税資金も十分確保できる見込みであり、養母の相続については大きな問題はないと考えられました。

本当の課題はSさん自身の相続

今回の本当の課題は、養母の相続ではありません。

 

Sさん自身の相続対策です。

 

独身で子どもがおらず、配偶者もいない方が亡くなった場合、両親が先に亡くなっていれば、法定相続人は兄弟姉妹になります。

 

Sさんの場合、実親側の姉と妹が相続人になる可能性があります。しかし、Sさんには、その姉妹へ財産を承継させる意思はありません。

 

長年交流がなく、人生を共に歩んできたという実感もないからです。

 

ところが、法律上は、「渡したくない」という気持ちだけでは、財産の行き先を決めることはできません。

 

何も対策をしなければ、財産は法定相続人である兄弟姉妹へ相続される可能性があります。

 

さらに、20年前に作成した遺言書には、別の問題もありました。

 

受遺者である養母が先に亡くなった場合、その遺言は実質的に機能しなくなります。

 

人生設計や家族関係が変化した現在、当時の遺言内容では、Sさんの意思を実現できなくなっていたのです。

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