「東京に戻る?」
島暮らしで感じた違和感は、人間関係だけではありません。移住前、陽子さんは買い物について、それほど心配していませんでした。
「今の時代はネット通販があるから、必要なものは何でも買える。そう思っていたんです」
実際、日用品や衣類など何でもネットで注文できます。東京のように“当日”とまではいかなくても、思ったよりも早く手に入ります。ところが、ショッピングモールをのぞいたり、洋服を見たり、雑貨店に入ったり……ぶらぶらと店を歩く時間が、なぜだか恋しくてしかたないのです。
島内に日常の買い物ができる店はありますが、いくつもの店を選べるわけではありません。大きな買い物をしたいときは本土へ渡る必要があります。
「これくらいのこと、覚悟していたはずなんですけどね。やっぱり実際に暮らしてみてわかる違和感ってあったんです」
移住から10ヵ月ほど経ったある夜。ついに夫婦は話し合うようになりました。
「……東京に戻る?」
夫もまた、都会暮らしのほうが自分に合っていると感じていました。
「この先20年、30年と、この距離感で暮らすのは難しいかもね」
幸いにも、夫婦には資金的な余裕がありました。ただし、ダメージがまったくなかったわけではありません。
移住時には、家の購入に約1,400万円、リフォームに約400万円、車2台で約250万円、引っ越し・家具・家電などに約150万円…約2,200万円を投じています。さらに、10ヵ月間の生活費や車の維持費、本土への交通費などもかかりましたし、東京へ戻るための引っ越し費用も必要になります。
購入した島の家は、購入時と同じ金額では売れそうもありませんし、車を東京へ持って帰ることはできません。
「それでも戻りたい」――夫婦は島を離れる決断しました。
