地方暮らし「車があれば困らない」と思っていたが…
「最後は、やっぱり都会で暮らしたいな」
隆夫さん(仮名・71歳)がそう口にすると、妻の和子さん(仮名・71歳)も「私も最近、そう思ってた」と答えました。
夫婦が都市部を離れたのは6年前。隆夫さんの退職を機に、自然の多い場所で暮らしたいと地方へ移住しました。
現在の年金は夫婦合わせて月約24万円。預貯金は約2,700万円あります。
移住先に選んだのは、山や田畑に囲まれた地方の住宅地でした。中古の戸建てを約1,300万円で購入し、500万円ほどかけて水回りや断熱をリフォームしています。
「都会なら同じ予算でこんな広い家には住めないよ」
移住した当初、隆夫さんはよくそう話していました。
庭では野菜を育て、休日には近くの温泉へ出かけます。近所から採れたての野菜をもらうこともあり、夫婦とも地方暮らしを楽しんでいました。
不便さも承知のうえでした。最寄り駅までは車で約20分。スーパーへは15分、大きな病院までは30分ほどかかります。
それでも夫婦はそれほど気にしていませんでした。
「車があれば何も困らなかったんです。買い物も病院も、自分たちの好きな時間に行けましたから」
ところが70歳を過ぎるころから、状況が変わってきました。最初に不安を口にしたのは和子さんです。
夜道を運転している際、対向車のライトが以前よりまぶしく感じるようになりました。雨の日には道路の白線も見えにくくなり、夕方以降はなるべく運転を避けるようになりました。
一方、隆夫さんも長距離の運転で疲れを感じるようになります。
決定打となったのは、和子さんが体調を崩したときでした。
かかりつけ医から専門医を紹介されましたが、その病院までは車で片道50分ほど。数回の通院が必要になり、すべて隆夫さんが送迎しました。
「もし俺が病気になったら、今度は誰が運転するんだろう」
その疑問を初めて口にしたといいます。
国土交通省『令和5年住生活総合調査』では、今後の住まいや住環境について、高齢者世帯では「日常の買い物などの利便」や「医療・福祉・介護施設の利便」も重要な要素として挙げられています。高齢期の住まいは、住宅そのものだけでなく、生活に必要な場所へどう移動するかまで含めて考える必要があります。
