サ高住はどんな施設なのか?
「私が間違っていたんでしょうか。サ高住なら安心だと思ったんです」
真剣な眼差しで訴える隆志さんに対し、筆者は次のようにアドバイスしました。
「隆志さんの考えは自然なものですよ。ただ、一つ整理しておきたいのは、サ高住は介護施設ではなく、あくまで賃貸住宅だという点です。法律で義務付けられているのは、安否確認と生活相談の2つだけ。食事や介護は基本的にオプションか外部サービスです。つまり、見守ってはくれますが、暮らしの張り合いまで用意してくれる場所ではないんです」
「たしかに、パンフレットに書かれている設備のよさばかり見ていました」
「サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)」は2011年に登録制度が始まった比較的新しい住まいで、2026年3月末時点で全国8,337件・約29万戸まで増加しています。
国土交通省「令和5年8月末時点の登録情報集計」によると、家賃・共益費・サービス費を合計した基本費用の全国平均は月約11万円。食費なども含めた実際の月額費用は、民間の調査では中央値で16万円台半ばというデータもあります。
一方、受け取る側の年金はどうでしょうか。厚生労働省「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金(基礎年金含む)の平均月額は男性16万9,967円に対し、女性は11万1,413円。文枝さんの13万円は女性としては平均より多いほうですが、それでもサ高住の費用には届きません。
「うちの場合、毎月3万円の取り崩しに加えて、空き家になった実家の固定資産税や光熱費の基本料で月1万5,000円ほど。合わせて月4万5,000円の持ち出しでした」
「そうなんです。実家を残したまま入居すると、住まいの費用を二重に払うことになる。仮に月4万5,000円なら年間54万円、10年で540万円です。1,100万円の貯蓄の半分が、住まいの重複だけで消えていく計算になります。お金の面でも、気持ちの面でも、今回の出戻りは合理的な判断だったと私は思いますよ」
その言葉に、隆志さんの表情が少し和らぎました。
