(※写真はイメージです/PIXTA)

「大きなリスクは取りたくない。でも、このまま現金で持っていれば相続税が重くなる」──。定年退職を目前に控えたFさんの総資産は5億円超。試算された相続税は約1億3,300万円にのぼりました。多額の借入を避けながら、老後の収入と相続税対策、家族の近くで暮らす希望をどう実現したのでしょうか。相続実務士・曽根惠子氏が解説します。

退職目前に急増した金融資産と、関東に残る選択

Fさんは、生まれ育った関西を離れ、関東圏に移り住んでから約30年になります。現在は、神奈川県のマンションで5歳年下の奥さんと2人で暮らしています。

 

子どもは、一男一女の2人です。長男は独身、長女は既婚で、いずれもすでに独立し、実家を離れて都内で生活しています。近々、長女が第1子を出産する予定で、ご家族にとって大きな喜びを迎えるタイミングでもありました。

 

長女の妊娠がわかるまでは、「リタイア後は夫婦で関西へ戻ろう」と考えていました。そのため、当時保有していた上場REITや株式などの金融資産をすべて売却し、関西でのマンション購入の手続きまで進めていたこともありました。

 

しかし、その計画は中止しました。最大の理由は、関東に暮らす子どもたちと、これから生まれてくるお孫さんの存在でした。

 

「娘に子どもが生まれるなら、近くでサポートしてあげたい。それなら、私たちはこのまま関東に残り、子どもや孫の近くで暮らすほうが、家族全員にとって幸せではないか」

 

そう考え直したFさんの手元には、資産整理によって現金化した上場株の売却金、約1億5,000万円がそのまま残っていました。さらに、来月の退職時には、約5,000万円の退職金が支給される予定です。

 

急激に膨らんだ現預金を今後どのように扱うべきか、考える必要があると感じ、相談に来られたのでした。

総資産「5億円超」 金融資産に大きく偏ったポートフォリオ

面談時にお伺いしたFさんの資産概算は、以下のとおりです。

 

現預金・金融資産:約4億5,456万円(株式の売却金、既存の預貯金など)
退職金(予定):約5,000万円(来月支給予定・税引後)
不動産(自宅):約470万円(神奈川県のマンション。夫婦共有名義の持分2分の1で換算。時価は約3,000万円)
合計(総資産):約5億456万円

また、Fさんは3年ほど前、将来の相続を見据えて「家族法人」を設立していました。個人で保有していたワンルームマンションを法人へ移管し、役員には妻と子ども2人が就任。ご本人は非役員・非株主という形を取っています。

 

一方で、Fさんは次のような悩みも抱えていました。

 

「会社は作ったものの、個人で保有している潤沢な金融資産を法人へ移そうとすると、多額の移転コストがかかってしまう。そのため、法人を作っただけで、十分に活用できていない」

 

家族法人という器はすでにあるものの、個人資産とどのように結びつければよいのかが課題となっていたのです。

「1億3,300万円」の想定相続税と、資産運用の板挟み

相続税の簡易試算を行ったところ、想定される税額は非常に大きなものとなりました。

 

Fさんの現在の総資産から、法定相続人3人分の基礎控除額4,800万円を差し引くと、課税対象額は約4億5,656万円になります。想定される相続税の総額は、約1億3,300万円にのぼりました。

 

相続税が多額になる主な原因は、資産の9割以上を現預金が占めていることです。

 

来月にリタイアを控えるFさんは、資産運用について次のように考えていました。

 

「大きなリスクは取りたくない。ネット利回りが3%弱もあれば、老後の生活費にはまったく困らない。国債なども検討したい」

 

しかし、国債や外貨で運用したとしても、金融資産である以上、相続税評価額は原則として100%、つまり額面どおりです。運用によって収益を得ることはできても、約1億3,300万円という相続税の問題は解決しません。

 

一方で、昨今の不動産価格の高騰や金利上昇を考えると、多額の借入をして不動産投資を行うことにも、Fさんは強い抵抗を感じていました。

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