(※写真はイメージです/PIXTA)

「大きなリスクは取りたくない。でも、このまま現金で持っていれば相続税が重くなる」──。定年退職を目前に控えたFさんの総資産は5億円超。試算された相続税は約1億3,300万円にのぼりました。多額の借入を避けながら、老後の収入と相続税対策、家族の近くで暮らす希望をどう実現したのでしょうか。相続実務士・曽根惠子氏が解説します。

借入を起こさない「現物不動産シフト」と「都心への住み替え」

Fさんの希望は、明確でした。

 

「リスクは徹底的に抑えたい」
「利回りは3%程度でよい」
「ただし、相続税は大きく引き下げたい」

 

これらすべてをかなえるため、以下の3つを柱とする対策をご提案しました。

①金融資産から「現物不動産」への無借金での組み換え

「不動産投資」と聞くと、銀行から融資を受け、借入によってレバレッジをかけるものだと考える方は少なくありません。

 

しかし、Fさんのように潤沢な手元資金がある場合、無理にローンを組む必要はありません。

 

現金で都心の優良な収益不動産、たとえば築浅の区分マンションなどを購入すれば、相続税評価額を時価の約3割~4割程度にまで圧縮できる可能性があります。

 

借入を行わないため、金利上昇の影響を受けることもありません。現預金のまま保有していては難しい相続税対策を、借入リスクを負うことなく実現する提案です。

②家族法人を「サブリース会社」として活用する

次に、個人で購入した収益不動産を、すでに設立している家族法人へ一括して賃貸する、サブリースの仕組みを構築します。

 

これにより、家賃収入の約15%~20%を、管理手数料などの形で法人の適正な利益として残すことが可能になります。

 

法人に蓄積した資金から、役員である奥さんや子どもたちへ、給与や役員報酬として分散して支給します。そうすることで、Fさん個人の資産がこれ以上増えることを抑えながら、次世代への資産移転を継続的に進めることができます。

③子世帯との近居を兼ねた「東京都心への住み替え」

現在住んでいるマンションを売却し、長男と長女が暮らすエリアへのアクセスがよい、東京都心のマンションへ住み替えるプランも提案しました。

 

都内に自宅マンションを購入すれば、将来の相続時に「小規模宅地等の特例」を活用することで、自宅部分の相続税評価額をさらに引き下げられる可能性があります。

 

それだけではありません。

 

これから生まれるお孫さんや子どもたちの近くで暮らせるようになり、必要なときに互いに支え合える環境が整います。相続税対策に加えて、家族のつながりを深められることも、大きなメリットでした。

想定相続税は「約2,000万円」へ 家族が喜ぶ住み替えも実現

Fさんは、提案を受けて具体的な対策へとかじを切りました。

 

手元にある現金のうち、生活防衛資金や国債での運用分として約1億5,000万円を残し、残る3億円を使って、都心の優良な区分マンションを複数戸、現金で購入しました。

 

これにより、3億円の現金に対する相続税評価額は、約9,000万円まで圧縮されました。約7割の圧縮です。

 

同時に、Fさんが希望していたネット利回り3%を上回る、年間約900万円、ネット利回り約3.2%の安定した家賃収入を得られる基盤も整いました。

 

借入を行っていないため、金利が上昇しても返済額が増えることはなく、金利上昇リスクもありません。

家族法人の活用で年間180万円を子どもたちへ

購入した区分マンションの管理は、家族法人へ委託しました。

 

年間家賃の20%にあたる約180万円を法人の所得として蓄積し、それを原資として、役員である子ども2人へ年間90万円ずつの報酬を支給することにしました。

 

これにより、Fさん個人の税負担を抑えながら、毎年継続的に子どもたちへ資産を移転できる仕組みが整いました。

 

さらに、現在の自宅を売却し、子どもたちの住まいの中間地点にあたる、都内のバリアフリーマンションを約1億円で購入しました。名義は夫婦共有としました。

 

いつでもお孫さんの顔を見に行くことができ、必要なときには互いにサポートし合える環境が整いました。相続税対策だけでなく、ご家族全員が満足できる住み替えとなったのです。

相続実務士の視点

今回のFさんの事例における成功の鍵は、ご本人のリスク許容度と、家族のライフイベントを丁寧に結びつけたことにあります。

 

一般的な不動産会社や税理士であれば、次のような提案をするかもしれません。

 

「5億円の資産があるなら、銀行から多額の借入をして一棟マンションを購入しましょう。そうすれば、相続税をゼロにできます」

 

しかし、定年を目前に控え、今後の金利動向に不安を感じているFさんに、そのようなリスクを負ってもらうことは、選択肢から外しました。

 

現金を現物不動産へ変える「自己資金100%」の組み換えであれば、どれほど金利が上昇しても、返済が滞る心配はありません。

 

Fさんが抱えていた漠然とした不安を解消するためには、相続税を減らすことだけでなく、借入に頼らない安全性を確保することが不可欠でした。

 

また、お孫さんの誕生に合わせて都心へ住み替えたことは、「相続税評価額の圧縮」と「家族のサポート」を同時に実現する選択となりました。

 

相続税対策は、残された家族のためだけに行うものではありません。いまを生きる家族全員が、より豊かに、安心して暮らすために行うものでもあります。

 

何も対策をせずに現預金のまま保有していれば、大切な財産は相続税によって大きく減少する可能性があります。

 

一方、現預金を優良な賃貸不動産へ組み換えれば、家賃収入を得ながら、家族の生活を豊かにし、次の世代へ資産をつないでいくことができます。

 

その決断をする大きな契機となったのが、Fさんにとっての「定年退職」だったのです。

 

 

 

 

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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