ローン、教育費、老後資金…すべての計画が崩れた日
後任になったのは、 創業者の実弟。大手総合商社で執行役員まで務め、経営再建も経験してきた人物です。就任から半年後、全社員が会議室へ集められました。スクリーンには 「中期経営改革計画」 という文字。
「これまで会社を支えてくださったことには感謝しています。しかし、これから評価するのは勤続年数ではありません。利益を生み出し、会社を成長させられる人です」
続いて説明された内容は、多くの社員に衝撃を与えました。年功序列廃止、成果評価制度導入、管理職全員の再審査、部長職の公募制 ――。
「役職は一度リセットします。現在の管理職も例外ではありません」
数週間後、小林さんは人事部へ呼ばれました。
提示された新しい処遇は「営業部長から一般社員への降格」。役職手当の消滅、新評価テーブルによる基本給の引き下げ、賞与は業績連動となり、年収は860万円から約520万円まで下がる見込みだと説明されました。退職金についても、それまで積み立てた分は維持されるものの、今後は一般社員として計算されます。
万全だと思っていた住宅ローン、教育費、そして老後資金……すべての計画が一瞬にして崩れてしまいます。収入激減に伴い、将来受け取る厚生年金の額に影響が出ることも避けられません。
「納得いきません。私は32年間、この会社に尽くしてきたんですよ」
「これまでのご貢献には感謝しています。しかし、新制度では、管理職に求める役割そのものが変わりました」
人事担当者の言葉に、小林さんは反論できませんでした。「あと数年だから」と言い訳を重ね、自分で何かを学ぼう、会社に貢献しようという気持ちが薄れていたことを自覚していたからです。
54歳。今さら転職して、同じ待遇を得られる自信もありません。結局、小林さんは移行同意書へ静かに署名しました。
「前の社長がいてくれさえすれば……」
家路につく途中、トボトボと歩きながらつい涙が零れました。しかし、心の中のどこかではわかっていたのです。実力を磨くことなく漫然と仕事をしてきた自分自身にも、大きな落ち度があるのだと。
