「何かあったら安心だから」子どもに勧められた住み替え
日曜日の午後、久美子さん(仮名・71歳)は共用ラウンジの窓際で、一人コーヒーを飲んでいました。
平日は囲碁や体操などの催しがありますが、休日のラウンジは静かです。聞こえるのは、自動販売機の作動音と、ときどき開くエレベーターの扉の音だけでした。
夫を亡くした久美子さんが、シニア向け分譲マンションへ移ったのは1年半前。以前は築40年を超える戸建てで暮らしていました。
ある夜、浴室で足を滑らせ、立ち上がるまでに時間がかかったことがあります。けがはありませんでしたが、その話を聞いた長男と長女は、住み替えを強く勧めました。
「今度、倒れて誰にも気づかれなかったら困るよ」
「ここならスタッフもいるし、何かあっても安心だから」
久美子さんも、庭の手入れや戸締まりに負担を感じ始めていました。自宅を売却した資金で小さな部屋を購入し、預貯金約1,400万円を残して入居。年金は月約12万円です。
管理費や見守りサービス料、修繕積立金などで毎月約5万円。そこに光熱費や食費、医療費が加わるため、決して余裕があるわけではありません。それでも、室内には段差がなく、緊急通報ボタンもあります。平日はスタッフが常駐し、体調について相談できる点には満足していました。
入居当初は、子どもたちも頻繁に様子を見に来ました。長男は車で日用品を運び、長女は収納を一緒に整えてくれたといいます。
ところが、生活が落ち着くにつれて訪問は減っていきました。長男は仕事が忙しく、長女も高校生と大学生の子どもを抱えています。
連絡が来るのは、病院へ行った日や台風が近づいたときが中心です。
「元気ならよかった。何かあったらすぐ連絡してね」
そう言われるたびに、久美子さんは「大丈夫よ」と答えていました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は、2025年時点で男性18.3%、女性25.4%と推計されています。一人で暮らす高齢者は、今後も増えていくと見込まれています。
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