「安泰の会社員人生」…そのまま終われると思っていた55歳会社員
「この会社に入れて、俺はラッキーだ」
小林宏之さん(仮名・54歳)は、常日頃からそう思っていました。地方都市の建材商社。大学卒業後に入社して以来、32年一度も転職を考えたことはありません。
理由は単純。会社が好きだったからです。創業社長は社員一人ひとりの名前を覚え、「子どもの受験はどうだった」「奥さん元気か」そんな声を掛けてくれる人でした。年功序列が色濃く、毎年給料も上がっていく環境です。
営業成績が特別良かったわけではありません。一方で、怠けているわけでもありませんでした。同期が転職や独立をするなかで、大きなトラブルを起こすことなく「そこに残り続けていた」……営業部長になれた理由は、“長く続けた結果、自然と順番が回ってきた”というのが、正直なところでした。
年齢を重ね、役職が立派になるにつれて、仕事への向き合い方は変わっていきます。資料の作成は課長や若手社員にほとんどすべて任せるようになり、営業会議では課長がまとめた数字を見ながら承認するだけ。
新しい営業手法には「うちは昔からこれでやってきた」と過去の話を持ち出し、デジタル化や生成AIの研修案内が回ってきても参加を見送る。「若手に経験を積ませたいから」……そう言いながら、自分自身は新しい知識も実務も少しずつ手放していました。
「部長という立場とはこういうもの」「この調子で定年までいける」――そう安心していました。50代で年収は860万円、退職金見込みは1,500万円以上。人生設計に不安はありませんでした。
ところが、その“安泰の会社員人生”に激震が走ります。それは、創業社長の急逝から始まりました。
