「孫のため」…1年以上かけて用意したプレゼント
「今月で仕送りは終わりにするから」
電話口でそう告げられた瞬間、静江さん(71歳・仮名)は言葉を失いました。
夫に先立たれて6年。現在は賃貸アパートで一人暮らしをしています。受け取っているのは、自身の老齢基礎年金と夫の遺族年金を合わせて月約9万円。長年専業主婦だったこともあり、年金額は決して多くありません。
家賃や光熱費、食費などを支払えば、手元に残るお金はわずか。近県で会社員として働く息子・正さん(39歳)が、生活を気にして毎月5万円を仕送りしてくれていました。
静江さんにとって、仕送りの5万円はなくてはならない生活費でした。しかし、ある出来事をきっかけに、正さんの態度が一変します。
静江さんには、正さんのほかに娘がいます。正さんは独身のため、娘が産んだ男の子が「初孫」。可愛さはひとしおでした。
生活は決して楽ではありませんでしたが、毎月の生活費をやりくりしながら、仕送りの一部を残しては、時々孫にプレゼントを送っていたという静江さん。おもちゃや洋服など、2,000~3,000円程度のものでした。
しかし、あるとき「祖父母がランドセルを贈る家庭も多い」と聞いた静江さん。祖母として何かやってあげたい――。値下げシールの貼られた食材を買い、自分の洋服や外出に使うお金は極力控える日々。節約に努めました。
そうして1年以上かけてお金を貯めて、7万円の新品のランドセルをプレゼントしたのです。
「孫がすごく喜んでくれてね。娘からも感謝されて。頑張ってよかったと思っていたんです」
ところが、それから数日後、正さんから電話がかかってきました。
「母さん、ランドセル買ってあげたって本当?」
娘から話を聞いたのでしょう。静江さんは嬉しそうに答えました。
「喜んでくれたみたい。よかったわ、おばあちゃんらしいことしてあげられて」
すると、正さんの声が低くなりました。
「……母さん、そのお金、どこから出したの? 毎月俺が送ってる仕送りからだろ?」
その言葉に、静江さんは黙り込みました。
「俺だって余裕があって送ってるわけじゃないんだ。それでも母さんが生活できるようにって、毎月無理してるんだよ」
「でも、特別なときだったから……」
「母さん自身の金なら、誰に何を買おうが何も言わない。でも、俺の仕送りで、どうして高いランドセルを買えるんだよ」
静江さんは、返す言葉がありませんでした。
「母さんが本当に生活に困ってると思って送ってた。でも、今月で仕送りはやめるよ。これ以上、俺が送ったお金を『自由に使えるお金』だと思われたくないから」
電話が切れたあと、静江さんはしばらく動くことができませんでした。
