「ここを直して住む」息子を驚かせた900万円の決断
「病院まで車で30分もかかるんだよ。今のうちに町なかへ移ったほうがいいんじゃないか」
長男からそう言われた正志さん(仮名・74歳)は、すぐに首を横に振りました。
「まだ運転できる。それに、この家を離れるつもりはないよ」
正志さんは妻の和子さん(仮名・72歳)と、築48年の木造戸建てで暮らしています。結婚後に建てた家で、二人の子どもを育ててきました。
最寄りのスーパーまでは車で約15分。内科のある病院までは約30分かかります。路線バスは1日に数本だけで、車がなければ生活しにくい地域です。
数年前から、長男は夫婦に住み替えを勧めていました。駅や病院に近い中古マンションを購入すれば、運転できなくなったあとも安心だと考えたためです。
夫婦も一度は物件を見学しました。しかし、正志さんはベランダから見える建物の多さに落ち着かず、和子さんも「知らない土地で一から暮らす姿が想像できない」と感じたといいます。
自宅では、春になると和子さんが庭で野菜を育て、正志さんは近所の仲間と用水路の清掃に参加します。隣家の住人とは40年以上の付き合いがあり、互いの姿を数日見かけなければ声をかける間柄でした。
「不便なのは分かっています。でも、ここでは誰がどこに住んでいるか分かる。マンションへ移ったら、便利になっても孤立するんじゃないかと思ったんです」
一方、家の老朽化は無視できませんでした。冬は浴室と脱衣所が冷え込み、廊下には段差があります。屋根や外壁も傷み、雨漏りへの不安も出ていました。
そこで夫婦は、住み替え資金として用意していた預貯金の一部を使い、自宅を改修することにしました。
工事費は約900万円。屋根と外壁を補修し、窓を断熱性の高いものへ交換。浴室とトイレには手すりを設置し、廊下の段差も解消しました。寝室は二階から一階の和室へ移し、将来は一階だけで生活できる間取りに変えています。
総務省『令和5年住宅・土地統計調査』によると、高齢者等のための設備がある住宅は3,115万5,000戸で、住宅全体の56.0%です。また、2019年以降に高齢者向けの設備工事が行われた持ち家は441万戸にのぼります。住み慣れた家を改修し、暮らし続ける選択も珍しいものではありません。
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