「頼んでないけど」3ヵ月後、妻が驚いた夫の行動
最初に浩二さんが任されたのは、洗濯と風呂掃除でした。ところが、初日からつまずきました。
「この服、乾燥機に入れていいの?」
「洗剤はどれくらい?」
「タオルはどこにしまうの?」
何度も呼ばれた由紀子さんは、とうとう言いました。
「私に全部聞いたら、私がやってるのと同じよ。失敗してもいいから、自分で考えて」
浩二さんは不満を感じましたが、自分で洗濯表示を見るようになり、洗剤の量も覚えました。
次に担当したのは週3回の昼食です。
最初は冷凍食品やカップ麺ばかりでしたが、やがて焼きそばや炒飯を作るようになりました。冷蔵庫を見るようになると、牛乳がなくなりそうなことや、調味料を切らしていることにも気づき始めます。
ある日、浩二さんが買い物から帰ると、由紀子さんが驚きました。
「トイレットペーパー、頼んでないけど」
「もう少しでなくなりそうだったから」
それまでなら考えもしなかったことでした。
内閣府の同白書によると、男性の「家事・育児・介護時間」は高齢層でも過去より増えていますが、2016年時点で65歳以上の男性は1日平均65分でした。一方、女性の65歳以上では家事・育児・介護時間が増加傾向にあるとされています。退職によって男性の仕事時間がなくなっても、家庭内の分担が自動的に変わるわけではありません。
3ヵ月ほどすると、夫婦の生活にも変化が出ました。
由紀子さんは平日の午後に友人と出かけるようになり、浩二さんもゴルフや散歩を楽しんでいます。夕食は由紀子さんが作る日が多いものの、週末には浩二さんが担当することもあります。
「定年したときは、これから自由だと思っていました。でも妻だって、子育てが終わってもずっと家の仕事をしていたんですよね」
浩二さんはそう振り返ります。由紀子さんも、夫に家事を「半分きっちり」求めているわけではありません。
「私が先に体調を崩すかもしれません。そうなったとき、洗濯機も使えない、ご飯も作れないでは本人が困るでしょう。老後のためにも必要だと思ったんです」
退職後の夫婦生活では、それまで当然だった家庭内の役割も変わります。
「手伝ってあげる」ではなく、自分の暮らしを維持するために家事を担う。浩二さんにとって定年は、会社での勤務を終える日であると同時に、夫婦の新しい暮らし方を始める日にもなりました。
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