「これで明日から毎日休みだ」定年した夫に妻が告げたこと
「長い間、お疲れさまでした」
最終出勤日、会社を出る浩二さん(仮名・60歳)の手には、同僚から贈られた大きな花束がありました。
38年間勤めた会社を定年退職。再雇用の話もありましたが、しばらくは働かず、好きなことをして過ごすつもりでした。
「朝寝坊して、平日にゴルフへ行って。旅行もしたいなと思っていました」
その日の夜、妻の由紀子さん(仮名・59歳)は好物のすき焼きを用意して夫を迎えました。食事が終わると、浩二さんは笑いながら言いました。
「これで明日から毎日休みだな」
すると、由紀子さんは少し間を置いて答えました。
「そうね。だから、あなたにも家事を覚えてもらいます」
浩二さんは「皿洗いくらいならするよ」と笑いました。しかし、妻は笑いませんでした。
夫婦には独立した2人の子どもがいます。由紀子さんは結婚後、子育てをしながらパート勤務を続けてきました。浩二さんが現役だったころ、平日は朝7時前に家を出て、帰宅は20時を過ぎることも珍しくありませんでした。
そのため料理、洗濯、掃除、日用品の買い足し、公共料金や家の修繕の手配まで、家庭のことはほぼ由紀子さんが担っていました。
「仕事が忙しいのはわかっていましたから、昔はそれでいいと思っていたんです。でも、定年後も同じでは困ると思いました」
由紀子さんが特に嫌だったのは、夫が「何かあれば言って」と話していたことでした。
「何をすればいいか考えるのも私なら、結局ずっと私が家事の責任者でしょう?」
翌朝、浩二さんが起きると、食卓には一枚の紙が置いてありました。
「洗濯」「風呂掃除」「昼食」「食料品・日用品の在庫確認」。
妻が書いた家事の一覧でした。
内閣府『令和2年版男女共同参画白書』では、夫婦になると女性の家事時間は男性の2倍以上になる傾向が示されています。また、食材や日用品の在庫把握、献立を考えるといった「家事のマネジメント」についても、「妻」「どちらかというと妻」が担う割合は多く、特に在庫管理と献立では8割を超えていました。家事は実際の作業だけでなく、「何をする必要があるか」を考える負担も含みます。
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