「ローンは終わったのに」築35年の家で増えていった心配
「家さえあれば、老後は何とかなると思っていました」
美代子さん(仮名・68歳)は、同い年の夫・隆さん(仮名・68歳)と暮らしています。
夫婦の年金収入は月約20万円。隆さんが60代半ばまで働き、住宅ローンも完済しました。
以前暮らしていたのは、30代前半で購入した郊外の4LDKの一戸建てです。2人の子どもを育てた家で、庭もありました。
子どもたちが独立すると、2階の2部屋はほとんど使わなくなりました。それでも夫婦に家を手放す発想はありませんでした。
「ローンが終わったんだから、あとはここで暮らせばいい。それが一番お金もかからないと思っていたんです」
ところが築30年を超えると、家のあちこちが気になり始めました。
給湯器を交換した数年後には、外壁の塗装を業者から勧められました。屋根についても、近いうちに補修を検討したほうがいいと言われます。
ある日、隆さんが見積書を見ながら言いました。
「この先、家にいくらかかるんだろうな」
美代子さんも同じことを考えていました。預貯金は約1,200万円ありましたが、年金生活に入ってからは大きな出費のたびに残高が減ることが気になります。
さらに、庭の草取りや2階の掃除も以前より負担になりました。
「2人しかいないのに、なんで4LDKを維持しているんだろう」
美代子さんがそう口にしたことから、夫婦は住み替えを考え始めました。
最初は中古マンションの購入も検討しました。しかし購入費用に加えて、管理費や修繕積立金、固定資産税が続きます。
そんなとき、市営住宅の募集を知りました。
駅からは少し離れるものの、スーパーと診療所が徒歩圏内にあり、バス停も近くにあります。間取りは2DK。エレベーターのある棟でした。
公営住宅は、公営住宅法に基づき、住宅に困窮する低額所得者に対して地方公共団体が低廉な家賃で供給する住宅です。入居には収入などの要件があり、希望すれば誰でも入居できるわけではありません。美代子さん夫婦の場合は自治体の収入基準などを確認したうえで申し込み、抽選を経て入居が決まりました。
内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上の住居形態は「持家(一戸建て)」が79.8%、「持家(分譲マンション等の集合住宅)」が3.2%で、持ち家が8割を超えています。高齢期まで持ち家に暮らす人が多数を占める一方、住まいをどう維持するかは長い老後を考えるうえで無視できない問題です。
