「11万円では暮らせないだろう」毎月15万円を送り続けた息子
正志さん(仮名・53歳)が母・幸子さん(仮名・78歳)への仕送りを始めたのは、6年前に父親が亡くなったことがきっかけでした。
幸子さんの年金は月約11万円。住宅ローンを完済した戸建てで一人暮らしをしていました。
父の葬儀後、正志さんが今後の生活について尋ねると、幸子さんは「年金だけじゃ、何かあったとき不安ね」とこぼしました。
「11万円ではさすがに厳しいだろうと思ったんです。父がいたころとは収入が全然違いますから」
正志さんは会社員で、妻との2人暮らし。娘はすでに独立しています。当時の年収は約1,200万円で、住宅ローンも50歳を前に完済していました。
父の死後、実家の家計を心配した正志さんは、当初月10万円を送るようになります。その後、幸子さんから「給湯器もそろそろ替えないといけない」「固定資産税の時期は出費が重なる」と聞き、月15万円に増額しました。
「母は昔からお金のことで子どもを頼る人ではありませんでした。だから『不安だ』と言うくらいなら、実際はもっと厳しいんだろうと思ったんです」
さらに正志さんには、前年にまとまった退職金ではなく、勤務先の持株を売却して得た資金がありました。「自分には余力がある」と判断したことも、15万円という金額につながりました。
幸子さんから「そんなにいらない」と言われたこともありました。しかし正志さんは、「余ったら病院代や家の修理に取っておけばいい」と聞き入れませんでした。
仕送りは6年間続きました。単純計算すれば年間180万円です。
その間、正志さん自身は昼食を弁当に変え、旅行の回数も減らしました。老後資金として積み立てていた金額を減らした時期もあります。
「母に何かあってから後悔するよりいいと思っていました」
そんな正志さんが久しぶりに実家へ泊まりに行ったときのことです。夕食後、幸子さんから「ちょっと見てほしいものがある」と通帳を渡されました。
残高を見て、正志さんは思わず聞き返しました。
「これ、どうしたの?」
そこには、正志さんが想像していた以上の預金が残っていました。幸子さんは年金の範囲を中心に暮らし、息子から届く15万円の大半には手を付けていなかったのです。
「あなたもこれからお金が必要になるでしょう。だから、なるべく残しておこうと思って」
正志さんは言葉を失いました。
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯の月平均可処分所得は11万8,465円、消費支出は14万8,445円で、平均では約3万円の不足となっています。
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