「夫と来られたら」旅の途中で何度も浮かんだ後悔
船での生活は、美智子さんが想像していた以上に刺激的でした。
朝はデッキを歩き、寄港地では同年代の参加者と観光へ出かけました。食事をともにするうち、一人で参加している人とも自然に親しくなりました。
一方、思いがけず寂しさを感じる瞬間もありました。夕暮れの海を夫婦で眺めている乗客を見たときです。
「夫がいたら、『きれいだね』って言っていたのかなと思いました」
ある寄港地では、かつて夫が行きたがっていた場所を訪れました。写真を撮りながら、美智子さんは「もっと早く来ればよかった」と初めて強く後悔したといいます。
もちろん、当時には当時の事情がありました。教育費も住宅ローンもあり、仕事を100日休むことも現実的ではありません。それでも、「完全に条件が整う日を待ち続けていた」という思いは残りました。
帰国後、娘から「念願だったんだから、行ってよかったね」と言われた美智子さんは、こう答えました。
「夢は叶ったよ。でも一つだけ心残りがある。お父さんと一緒に行けるときに、もっと短い旅行でもしておけばよかった」
後悔しているのは、世界一周クルーズに早く申し込まなかったことではありません。
「100日間の旅じゃなくてもよかったんです。1週間でも、近い国でもよかった。全部落ち着いてから楽しもうと思っていたことが、今になって一番もったいなかったと思います」
美智子さんは帰国後、友人との国内旅行や、娘との数日の旅行を予定に入れるようになりました。
老後資金を守ることと、今しかできない経験にお金を使うこと。その正解は家計や家族構成によって異なります。
ただ、「時間ができたら」「すべて落ち着いたら」と先送りしているうちに、同じ相手と同じことを楽しめる機会まで残っているとは限りません。美智子さんの100日間は夢を叶えた旅であると同時に、「いつか」を待ち続けることについて考え直す旅にもなりました。
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