(※写真はイメージです/PIXTA)

物価が上がっても、年金生活では収入を簡単に増やすことはできません。数十円、数百円の値上げでも、毎日の食費や光熱費に積み重なれば家計への影響は大きくなります。現役時代には想像もしなかった買い物の仕方をするようになった高齢者もいます。

「何のためにお金を残してるの?」娘のひと言

以前、信夫さんは月に2回ほど学生時代の友人と昼食を楽しんでいました。

 

しかし、1,000円程度だったランチが1,300円、1,500円と上がるにつれ、参加する回数を減らしました。

 

「年金が19万円あると言うと、『十分じゃないか』と言われることがあります。でも、19万円全部を自由に使えるわけではありません」

 

税や社会保険料のほか、管理費や修繕積立金、光熱費、通信費などが毎月出ていきます。さらに、古くなったエアコンを交換した年には十数万円が飛びました。

 

総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯では、月平均の可処分所得が11万8,465円であるのに対し、消費支出は14万8,445円。平均では消費支出が可処分所得を約3万円上回っています。

 

信夫さんにも貯蓄は残っています。それでも「一度取り崩し始めたら止まらなくなる」という不安が強く、できるだけ年金の範囲で暮らそうとしていました。

 

そんな父の様子に気づいたのは、離れて暮らす娘でした。

 

ある日、自宅を訪れた娘が冷蔵庫を開けると、中には値引きシールが貼られた総菜と豆腐、納豆が並んでいました。

 

「お父さん、ちゃんと食べてる?」

 

そう聞かれた信夫さんは、「食べてるよ。今はみんな節約してるだろ」と答えました。

 

話を聞いていくと、娘は父が食費を抑えているだけでなく、以前は楽しみにしていた友人との昼食にもほとんど行かなくなっていることを知りました。

 

「この前も誘われたんだけどな。外で食べれば1,500円くらいするだろ。家なら数百円で済むから」

 

信夫さんがそう話すと、娘は少し呆れたように言いました。

 

「節約は必要だと思うけど、そのために友達とも会わなくなったら、何のためにお金を残してるの?」

 

その言葉に、信夫さんは返事ができませんでした。いつの間にか家計を守るための節約が、「できるだけお金を使わないこと」そのものに変わっていたことに気づいたといいます。

 

それ以来、信夫さんは食費や光熱費、固定費を書き出し、月々いくらなら使っても問題ないのかを改めて計算しました。使っていなかった有料サービスを解約する一方、友人との昼食代は最初から予算に入れることにしました。

 

物価高のなかで支出を見直すことは必要です。しかし、高齢期の家計では、預貯金を一円も減らさないことだけが目的になると、食事や人付き合いまで削ってしまうことがあります。

 

収入、固定費、貯蓄額を把握したうえで、「何を削り、何には使うのか」を決めることも老後の資金管理です。値上がりが続く時代だからこそ、将来への備えと現在の暮らしの両方を守る視点が求められます。

 

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