「一人より安心だから」息子夫婦との同居を決めた84歳母
「これなら、何かあっても安心だね」
3年前、長男一家との同居が決まったとき、春江さん(仮名・84歳)は心からそう思っていました。
夫を亡くしてから約8年。月約10万円の年金と貯蓄を頼りに、長年暮らした戸建てで一人暮らしを続けていました。
転機は、自宅の玄関先で転んだことです。幸い大きなけがにはなりませんでしたが、それを知った56歳の長男・浩司さんから、「そろそろ一人は心配だから、一緒に住まないか」と提案されました。
浩司さん夫婦には大学生の娘がいました。当時住んでいた賃貸マンションも手狭だったため、春江さんの家を一部リフォームし、3人が移り住むことになったのです。
家は春江さん名義で住宅ローンもありません。水回りの改修などに約300万円かかり、春江さんも100万円ほど負担しました。
同居当初は快適でした。
重い買い物は浩司さんが担当し、義理の娘が夕食を作ってくれます。夜に物音がしても、「隣の部屋に家族がいる」と思うだけで安心できました。
「一人のころは、お風呂で倒れたらどうしようと思うこともありました。息子たちが来てくれて、本当によかったと思っていました」
しかし半年ほどすると、小さな違和感が積み重なり始めました。
春江さんが毎朝見ていたテレビは孫が使うようになり、リビングには家族の荷物が増えました。冷蔵庫には食品がぎっしり詰まり、自分で買った漬物を入れる場所を探すこともありました。
台所に立てば、義理の娘から「お義母さん、私がやりますよ」と言われます。
最初は親切だと思っていました。しかし、掃除をしても洗濯物を畳んでも、「やらなくていいですよ」と止められるようになります。
ある朝、春江さんが家族の朝食を作ろうとしていると、浩司さんが言いました。
「母さんはもう何もしなくていいよ。家のことはこっちでやるから」
悪意のない言葉だったのでしょう。それでも春江さんには、別の意味に聞こえました。
「ここは私の家なのに、私は何もしちゃいけないの?」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上の人がいる世帯は2023年時点で2,695万1,000世帯と、全世帯の49.5%を占めています。かつては三世代世帯が多かったものの、現在は夫婦のみの世帯と単独世帯がそれぞれ約3割を占めており、高齢者の暮らし方は大きく変化しています。
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