「年金19万円あれば大丈夫」だったはずが…
午後7時を過ぎると、信夫さん(仮名・76歳)は近所のスーパーへ向かいます。目当ては、鮮魚や総菜の売り場に貼られる値引きシールです。
「20%引きでは買わないんです。半額になるまで店の中を一周して待つこともあります」
信夫さんは約40年間会社員として働き、65歳で退職しました。現在の年金は月約19万円。妻とは7年前に死別し、住宅ローンを完済したマンションで一人暮らしをしています。
退職時には約2,000万円の貯蓄がありました。旅行や外食を毎月楽しむほどの余裕はなくても、住居費が抑えられているため、「普通に暮らす分には困らない」と考えていたといいます。
実際、70代前半まではスーパーで値札を細かく見ることもありませんでした。
朝食用のパン、牛乳、卵、昼食の麺類、夕食用の魚や肉。食べたいものをかごに入れても、1回の買い物は2,000円前後で済んでいました。
ところが数年前から、「同じものを買っているのに高い」と感じることが増えます。
以前は特売なら200円程度で買えた卵が300円近くする。菓子や冷凍食品は価格が上がるだけでなく、中身が少なくなったようにも感じました。
「最初は月に2,000円、3,000円増えたくらいだと思っていました。でも電気代も上がって、日用品も高くなった。気づくと毎月の残り方が全然違うんです」
夏と冬には光熱費が膨らみ、マンションの管理費や修繕積立金も引き上げられました。固定資産税や家電の買い替えなど、年に数回まとまった支出もあります。
そこで信夫さんが最初に削ったのが食費でした。
刺身は値引きされた日にだけ買う。牛肉は豚肉や鶏肉に替える。総菜を買うなら閉店前を狙う。昼食は外で食べず、自宅でうどんやそばを作るようになりました。
スーパーを訪れる時間も午後から夜へ変わりました。
「半額のシールが貼られる時間がだいたいわかるんですよ。今では、それまで待つのが日課です」
総務省『2025年平均 消費者物価指数』によると、2025年の総合指数は前年比3.2%上昇しました。なかでも「食料」は6.8%上昇しており、日々の買い物ほど値上がりを実感しやすい状況となっています。
年金額が変わらなければ、支出の増加分は別の何かを減らして吸収するしかありません。信夫さんの場合、それが少しずつ日常の楽しみにまで及んでいきました。
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