会社を守る「正しい懲戒プロセス」6つのステップ
では、社員の横領が発覚した場合、会社はどのような手順を踏むべきなのでしょうか。正しいプロセスは以下の通りです。
ステップ1:証拠の保全と「自宅待機命令」
まずは被害の拡大と証拠隠滅を防ぐことが最優先です。本人のパソコン、会社の通帳、印鑑、帳簿類などを直ちに確保します。
そして、本人にはその場での解雇ではなく「事実関係の調査のため、業務命令として本日から自宅待機を命じる」と通告します。この際、自宅待機期間中は無給とする就業規則の規定がない限り、原則として賃金(休業手当または全額)を支払う必要があります。悔しいですが、後々の法的正当性を保つための「必要経費」と考えます。
ステップ2:徹底的な事実調査と証拠固め
社内の関係者、税理士、顧問弁護士などを交えて、横領の全容を解明します。
・いつから、いくら横領したのか(金額の特定)
・どのような手口だったのか
・何に金を使ったのか(使途の確認)
これらの証拠(不正な振込履歴、改ざんされた帳簿、架空の請求書など)を客観的な資料として整えます。
ステップ3:本人へのヒアリング(弁明の機会の付与)
証拠が固まったら、本人を会社に呼び出すかオンライン等でヒアリングを実施します。必ず複数名(社長と役員、弁護士や社労士など)で対応し、やりとりは録音するか、詳細な議事録に残します。
ここで本人の口から事実を認めさせ、可能であれば「顛末書」や「事実を認める念書(支払念書)」を自筆で書かせます。
ステップ4:懲戒委員会の開催と処分の決定
就業規則の規定に基づき、社内で懲戒委員会等を開き(中小企業の場合は役員会等)、処分を決定します。今回の事例のように3,000万円という多額の悪質な横領であれば、最も重い「懲戒解雇」が妥当と判断されるでしょう。
ステップ5:解雇予告除外認定の申請と解雇通知
即時解雇とする場合は、管轄の労働基準監督署へ「解雇予告除外認定」の申請を行います。横領の証拠と本人の顛末書などがあれば、通常は認定が下ります。認定書が交付されたあと、正式に「懲戒解雇通知書」を本人に交付します。
※実務上は、認定を待つ時間が惜しい場合や手続きを簡略化したい場合、30日分の解雇予告手当を支払って即時解雇とするケースもあります。3,000万円の被害に比べれば、数十万円の手当を払ってでも速やかに縁を切るほうが得策と判断することもあります。
ステップ6:刑事告訴と損害賠償請求
懲戒解雇はあくまで「労働契約の解除」に過ぎません。盗まれたお金を取り戻すためには、別途、民事での不法行為に基づく損害賠償請求を行う必要があります。また、警察に対して業務上横領罪での刑事告訴を行う準備も進めます。
ただし、横領されたお金は使い込まれていることが多く、全額回収できるケースは稀であるという厳しい現実も知っておく必要があります。
