税務調査官「支払いの実態が確認できません」52歳ベテラン経理の〈横領3,000万円〉が発覚…「即日クビ」を命じた社長に迫る“まさかの危機”【社労士が解説】

税務調査官「支払いの実態が確認できません」52歳ベテラン経理の〈横領3,000万円〉が発覚…「即日クビ」を命じた社長に迫る“まさかの危機”【社労士が解説】

中小企業において、経理担当者は「会社の金庫番」として絶大な信頼を寄せられる存在です。しかし、その絶対的な信頼と「その人にしか業務がわからない」というブラックボックス化が、取り返しのつかない悲劇を生むことがあります。今回は、長年会社を支えてきたはずのベテラン経理社員が、自身の借金返済のために巨額の横領に手を染めていた事例をご紹介します。さらに、怒りに任せて「即日懲戒解雇」を言い渡してしまった社長に対し、労働問題の専門家である社会保険労務士(社労士)が、法的なリスクと正しい対処法、そして不正を防ぐための労務管理の鉄則を徹底解説します。

激怒した社長へ社労士が突きつけた「厳しい現実」

翌日、A社長は顧問契約を結んでいる社会保険労務士に電話をかけ、事の顛末と「即日懲戒解雇にした」ことを報告。

 

「それは大変でしたね、毅然とした対応で正解です」という言葉が返ってくると思っていましたが、電話口の社労士の声は険しいものでした。

 

「A社長。お怒りはごもっともですし、横領は決して許される行為ではありません。しかし、『即日の懲戒解雇』は法的にリスキーです。最悪の場合、会社側が不当解雇で訴えられ、Bさんに解決金を支払わなければならない可能性があります」

 

「3,000万円も会社のお金を盗まれたのに? なぜこちら側が訴えられないといけないんだ……」と、思わずA社長は言葉を失いました。

【社労士が解説】横領犯でも「即日クビ」はNG…会社側の3つの法的リスク

どれほど明白な横領(業務上横領罪)であっても、労働者を解雇する場合には労働基準法および労働契約法などの法律が厳格に適用されます。A社長が行った「即日懲戒解雇」には、主に以下の3つの大きな法的リスクが潜んでいます。

 

1. 解雇予告義務の違反(労働基準法第20条)

労働基準法では、会社が労働者を解雇する場合、「少なくとも30日前に予告をするか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならない」と定められています。

 

「横領などの悪質な行為があった場合は、即時解雇できるのでは?」と思うかもしれませんが、そのためには労働基準監督署長から「解雇予告除外認定」を受ける必要があります。この認定を受けずに、予告も手当の支払いもなしに即日解雇を言い渡すと、労働基準法違反となってしまうのです。

 

2. 手続きの瑕疵(適正手続の原則)

懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒の事由と種類が明記されている必要があります。そして、さらに重要なのが「弁明の機会の付与」です。

 

どれだけ証拠が揃っていても、本人に事実関係を確認し、言い分(弁明)を聞く場を設けずに一方的に下した懲戒処分は、裁判等で「手続き違反」として無効(懲戒権の濫用)と判断されるリスクが高まります。

 

3. 証拠隠滅や逆ギレによる泥沼化

その場で感情的に「クビだ」と言い渡してしまうと、本人が会社へのアクセス権を持ったまま逃隠したり、自宅から会社のシステムにアクセスして証拠となるデータを消去したりする恐れがあります。

 

また、不適切な解雇手続きを逆手に取られ、弁護士や合同労組(ユニオン)を通じて「不当解雇である」と争いを仕掛けられるケースも少なくありません。

 

次ページ【社労士が解説】会社を守る「正しい懲戒プロセス」6つのステップ

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