(※写真はイメージです/PIXTA)

親を老人ホームに預ける際、多くの家族を悩ませるのが「これから先、介護度が上がったら一体いくらかかるのか」という終わりの見えない経済的不安です。状態が悪化すれば、サービスが増え、医療費がかさみ、支払いは右肩上がりに増えていく――そう考えるのはごく自然なことでしょう。本記事では、合同会社エミタメの代表を務めるFPの三原由紀氏が、山本さん親子の事例とともに「老人ホーム費用のカラクリ」について解説します。※相談事例は本人の許諾を得てプライバシーのため一部脚色しています。

「要介護度が上がれば費用も上がる」は思い込みかもしれない

恵子さんのように、「介護度が上がれば費用も上がる」と考える人は少なくありません。実際、要介護度が上がればおむつ代や医療費など新たな負担が生じるケースは多く、この思い込み自体は決して不自然ではないでしょう。

 

この現象を理解するうえで欠かせないのが、有料老人ホームには大きくわけて「介護付」と「住宅型」の2種類があるという点です。

 

介護付有料老人ホームは、都道府県などから「特定施設」の指定を受け、施設のスタッフが直接介護サービスを提供します。費用は要介護度に応じた定額制で、介護がどれだけ必要になっても月々の介護サービス費はほぼ変わりません。

 

一方、和子さんが入居したような住宅型有料老人ホームは、この指定を受けておらず、介護が必要になった場合は入居者自身が外部の訪問介護事業所などと個別に契約する仕組みです。そのため、利用したサービスの量に応じて費用が変動し、逆にいえば「利用の仕方次第で費用が下がる」余地もあるのです。

 

厚生労働省の調査(令和6年6月時点)によると、全国の有料老人ホーム1万7,246施設のうち、介護付は4,559施設で全体の3割に届かず、住宅型が73.5%を占めます。つまり、私たちが「老人ホーム」と聞いてイメージする施設の多くは、実は住宅型なのです。

 

住宅型有料老人ホームの費用は、施設が独自に価格を設定できる「施設独自のサービス費用」と、要介護度に応じた上限の範囲内で1〜3割を自己負担する「介護保険サービス」の組み合わせで成り立っています。

 

後者の自己負担は、要介護度が一段階上がっても数千円程度の増加にとどまりますが、前者には上限がなく、どれだけ手厚く組むかで総額は数万円単位で変わります。和子さんの支払額が大きく動いたのも、この上限のない部分を支援体制の見直しで圧縮したためでした。

 

重要なのは「介護度が上がったかどうか」だけでなく、「本人に本当に必要な支援はなにか」という視点です。

 

近年の介護現場では、本人ができることまで先回りして介助するのではなく、本人の力をできるだけ活かす「自立支援」の考え方が重視されるようになっています。恵子さんのケースも、まさにこの考え方が費用面に表れた一例といえるでしょう。もちろん、すべての施設で同じことが起きるわけではなく、「介護付」か「住宅型」か、また施設の料金体系やケアマネジメントの方針によって結果は大きく異なります。

「月額料金」だけで安心しない、老人ホーム選びの視点

老人ホームを検討する際、多くの人はまず月額利用料の金額に目を向けます。しかし本当に確認すべきなのは、その金額になにが含まれているのか、そして介護状態が変化したときに、どのような方針でケアプランを見直す施設なのかという点です。

 

見学や契約の際には、次のような点を確認しておくと安心です。

 

・月額料金のうち、施設独自の付加サービス費用がどの程度を占めているか

・介護度が変化した場合、ケアプランや支援体制をどのような頻度・視点で見直すか

・「本人ができること」をどう評価し、支援内容に反映しているか

 

和子さんのように、いままさに介護費用と向き合っている方は、預貯金の取り崩しペースを一度シミュレーションしてみるだけでも、見通しは大きく変わります。

 

また、恵子さんと同世代の方であれば、自分自身の将来に向けて、年金の繰下げ受給で毎月の受取額を増やす、必要に応じて働き方を見直すといった備えを、いまのうちから検討しておく選択肢もあります。老後の費用不安をこれ一つで解消できる方法はありませんが、事前に情報を持っているかどうかで、いざというときの安心感は大きく変わります。

 

「介護が必要になれば費用は増える一方だ」と思い込んでいると、老人ホームの本当の費用の姿は見えてきません。もしいま、家族の入居を検討している、あるいはすでに入居しているなら、一度、月額料金の内訳とケアプランの見直し方針を確認してみてはいかがでしょうか。それが、想定外の請求書に驚かないための、確かな一歩になるはずです。

 

 

三原 由紀

合同会社エミタメ

代表

 

 

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