相続税も所得税も課されるのは二重課税ではないのか?
もっとも、「相続税も所得税も課されるのであれば二重課税ではないのか」と疑問を抱く人も少なくないだろう。
この点について、貝井税理士は「そのように感じるのは、ごく自然なことです」と話す。
「実際、東京高裁も『実質的には相続財産と同じ経済的価値』と考え、所得税は課されないと判断しました。一方で、税法は今回の事件だけでなく、将来起こり得るさまざまな事例にも適用されるルールです。例えば、相続後に金融機関との再交渉によって、当初は予定されていなかった債務免除を受けたケースまで『相続財産と同じだから非課税』と考えることになると、相続によって取得した財産と、相続後の交渉によって新たに得られた利益との区別が難しくなります。そのため最高裁は、『相続によって取得した財産』と『相続後の出来事によって新たに生じた利益』は区別して考えるべきだと判断したものと考えられます」
もっとも、最高裁は「だから所得税を課してよい」とまで判断したわけではない。債務免除による利益が、そもそも所得税法上の「所得」といえるのかについては結論を示さず、改めて審理するよう差し戻しているようだ。
貝井税理士は、「一般の感覚では『同じ利益』に見える一方で、法律上は『別の利益』と評価できるのかが争われた事件でした。最高裁も、その違和感を否定したのではなく、『この問題は二重課税のルールだけでは答えは出せないので、所得とは何かという観点から改めて判断してください』と整理した判決と理解すると分かりやすいでしょう」と説明する。
差戻審で問われる本当の論点
東京高裁では今後、「非課税規定が適用されるか」ではなく、さらに根本的な問題が審理されることになるようだ。
それは、「相続税で債務控除されなかった相続債務が、その後免除されたことによる利益は、所得税法上の『所得』といえるのか」という論点だ。
納税者側は、「新たな財産を取得したわけではなく、相続時の評価の問題にすぎない」と主張すると考えられる。一方、税務当局は、「巨額の債務が消滅したことで経済的利益が生じており、所得税の対象になる」と主張することが予想される。
つまり、差戻審では、「所得とは何か」という所得税法の根本的な考え方が正面から問われることになる。
