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全国平均2.9%上昇 5年連続で地価上昇が続く
路線価は、相続税や贈与税の土地評価額の基準となる価格で、公示地価のおおむね80%を目安として算定される。令和8年分の全国平均は前年比2.9%上昇し、5年連続のプラスとなった。新型コロナ禍からの経済活動正常化に加え、インバウンド需要の回復や都市再開発、住宅需要の底堅さが地価を押し上げている。
全国最高路線価は、東京都中央区銀座5丁目の銀座中央通り(鳩居堂前)で、1平方メートル当たり5,336万円(前年比11.0%増)となり、41年連続で日本一となった。今年の特徴は、こうした地価上昇の波が東京などの大都市圏にとどまらず、地方へと広がっている点にある。観光地や地方中核都市、首都圏近郊の住宅地でも上昇が続き、日本全体の資産構造に変化をもたらしている。
相続専門サイト「24時間相続」を運営する貝井英則税理士(シェル総合会計事務所代表)に取材をすると、今回の路線価上昇は、「実務上はある程度予想されていた動きだった」とのことだった。
「3月の地価公示でも全国的な地価上昇が確認されており、路線価は公示価格のおおむね80%を目安として算定されているため、今回の結果はその流れを反映したものと言えます」
そのうえで、「路線価の上昇は、そのまま土地の相続税評価額の上昇につながるため、相続税額が増加する可能性があります。特に都市部では土地が相続財産の大半を占めるケースも多く、数%の上昇でも課税価格が大きく変わることがあります」と指摘する。
一方で、「配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などもあるため、『路線価が上がったから必ず相続税が増える』というわけではありません」とも説明する。
インバウンドが押し上げる「観光地インフレ」
その象徴ともいえるのが、インバウンド需要に沸く観光地だ。令和8年分の路線価では、全国の税務署別最高路線価の上昇率トップが長野県白馬村の32.7%増となり、3年連続で全国1位となった。続く野沢温泉村は31.3%増、北海道富良野市は28.0%増と、国内有数のリゾート地が上位を占めている。
白馬村では、世界的なスキーリゾートとして欧米やオーストラリアから多くの観光客を集め、海外富裕層による別荘購入やホテル開発も活発化している。野沢温泉村でも、歴史ある温泉街とスキー場の人気を背景に宿泊施設の新設が相次ぎ、地価上昇の勢いを強めている。富良野市でも、冬のスキーだけでなく夏のラベンダー観光が世界的な知名度を高め、外国人投資家による不動産取得が土地需要を後押ししている。
こうした地域では、長年住み続けてきた住民が、知らないうちに高額資産の所有者となるケースも増えている。親世代にとっては「昔からある実家」でも、相続時には想定以上の評価額となり、納税資金の準備が大きな課題となる可能性がある。
貝井税理士は、「昔からある実家だから、それほど価値は高くないと思い込んでいるケースが危険です」と話す。
「観光需要やリゾート開発によって、所有者が想像している以上に評価額が高くなっていることがあります。土地の評価額が上がる一方で、相続人全員がその土地を利用したいとは限りません。売却するのか、誰が取得するのか、納税資金をどう確保するのかなど、遺産分割まで含めて早めに話し合っておくことが重要です」
インバウンドによる地域活性化は歓迎すべき動きだが、その恩恵の裏側では、相続税負担という新たな課題も浮かび上がっている。
地価上昇は全国へ 地方や郊外でも進む「実家の資産家化」
地価上昇の広がりは、東京への一極集中だけでは説明できなくなっている。熊本県では半導体大手TSMCの進出によって周辺地域の地価上昇が続き、北海道でもラピダスの工場建設を背景に土地需要が高まっている。大規模投資や雇用拡大が、地方の資産価値を押し上げる新たな原動力となっている。
また、テレワークの定着や住環境を重視する価値観の変化を背景に、都心から一定の距離を置いた郊外住宅地への需要も根強い。神奈川、埼玉、千葉では交通利便性の高い地域を中心に住宅地の評価額が上昇し、一般家庭でも相続財産の総額が基礎控除額を超えるケースが増えつつある。
相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される。配偶者と子ども2人であれば4,800万円となるが、自宅の土地評価額が上昇すれば、預貯金などを合わせて基礎控除を超える家庭も増えていくとみられる。
貝井税理士によれば、最近増えているのが、「うちは相続税とは関係ないと思っていたのですが、大丈夫でしょうか」「実家の土地はいくらで評価されるのでしょうか」といった相談だという。
「全国的には相続税の課税対象とならない方が多いのが実情ですが、都心部では自宅の土地だけで基礎控除に近づいたり、超えたりするケースも少なくありません。長年住み続けているご家庭では、購入当時はそれほど高額ではなかった土地が、再開発や住宅地としての人気上昇によって大きく値上がりしていることがあります」
実務では、「自宅はいくらで評価されるのか」「相続税はどの程度になるのか」「いまからできる対策はあるのか」といった相談が増えているという。
「土地の価値は上がったのに生活は何も変わっていない、という声も少なくありません。相続税は資産価値を基準に課税されますが、納税は現金で行わなければなりません。不動産価格が上昇する局面では、納税資金をどう確保するかも重要になります」
「相続税が減る街」もある――地域格差が広がる日本
もっとも、全国のすべての地域で地価上昇が続いているわけではない。人口減少や高齢化が進む地域では、路線価が下落する地点も残っており、能登半島地震の被災地では、生活基盤や観光需要への影響から地価が下がったケースも見られる。
同じ日本国内でも、インバウンドや企業進出によって資産価値が急上昇する地域がある一方、人口流出や産業縮小によって地価の維持に苦労する地域もある。こうした地域差は、相続税負担の差としても表れ始めている。
貝井税理士は、「地方では都市部ほど地価は高くないものの、土地だけを見て安心するのは危険です」と指摘する。
「預貯金、有価証券、生命保険、貸家や貸地などを含めた財産全体を把握することが大切です。また、地方でも駅前や再開発地域、観光地などでは地価が上昇しているケースがあります」
一方で、地方では相続税以上に、空き家問題が深刻になることも少なくないという。
「相続人が都市部に住んでいて実家を引き継ぐ予定がなく、売却したくても買い手が見つからない。管理費や固定資産税だけが負担となるケースもあります。都市部では『相続税が高い』、地方では『空き家や不動産管理が大変』というように、悩みの内容は異なりますが、どちらも大きな相続問題です」
「うちは大丈夫」が落とし穴――実家の価値を見直す時代に
親世代は、土地を取得した当時の価格感覚を持っているため、現在の評価額との開きに気づきにくい。しかし、相続税は購入時の価格ではなく、相続発生時の評価額を基準として計算される。
周辺の再開発や観光需要、人口流入によって、長年住み続けてきた実家が、思いがけず高額資産へと変わるケースも珍しくない。相続が発生して初めて税負担の大きさを知り、納税資金を確保するために不動産売却を検討する家庭もある。
「うちは大丈夫」という思い込みが、将来の備えを遅らせる要因になることもある。相続が発生してから慌てるのではなく、早い段階で資産状況を確認し、家族で話し合いを始めることが重要になっている。
路線価を確認することが、相続対策の第一歩になる
国税庁のホームページでは、全国の路線価図が公開されており、誰でも無料で確認できる。自宅前の道路に表示された路線価をもとに、おおよその土地評価額を把握することも可能だ。
もちろん、実際の相続税評価では、土地の形状や接道条件、小規模宅地等の特例なども考慮されるため、単純な計算だけで税額が決まるわけではない。それでも、自宅や実家の資産価値を知ることは、将来の相続対策を考える第一歩となる。
貝井税理士は、一般家庭が今から取り組める対策として、財産の一覧作成、相続税の概算試算、遺言書の作成、生前贈与の活用、家族での話し合いを挙げる。
ただ、近年はタワーマンション評価の見直しに加え、令和8年度税制改正では、相続開始前5年以内に取得した一定の貸付用不動産について新たな評価方法が導入される予定であり、「不動産を購入すれば大幅な節税になる」という従来型の発想だけでは十分ではなくなってきているという。
実際には、「路線価が上がったので相続税が心配です」という相談の背景に、財産の把握不足や親の認知症、兄弟間の関係、遺言書未作成といった、税金以外の課題が潜んでいるケースも少なくない。
「相続税対策というと、いかに税金を減らすかが注目されがちですが、実際には相続税は相続全体の1つの問題に過ぎません。円満な遺産分割、財産の見える化、認知症への備え、遺言書の作成など、家族全体を見据えて早めに準備することが、結果として最も有効な相続対策につながります」(貝井税理士)
今回の路線価上昇は、相続税負担が増える可能性があるという意味では、決して歓迎できる話ばかりではない。しかし、「うちは相続税とは関係ない」と考えてきた家庭にとって、将来を考えるきっかけになることも確かだ。
実家の価値を知り、家族で話し合いを始めること。その小さな一歩が、円満な資産承継につながる第一歩になるのかもしれない。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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