最高裁が否定したのは「二重課税論」
これに対し、最高裁は東京高裁の考え方を採用しなかった。
判決は、所得税法9条1項16号は「相続税や贈与税の対象となった同一の経済的価値に所得税を重ねて課さないための規定」であるという平成22年最高裁判決の考え方を改めて確認した。
その上で、本件の債務免除益は、相続後に停止条件が成就して初めて発生した利益であり、「相続によって取得した経済的価値」とは評価できないと判断した。「相続だから非課税」という東京高裁の論理は成り立たないと結論付けた形だ。
この判断について、相続専門サイト「24時間相続」を運営する貝井英則税理士(シェル総合会計事務所代表)は「今回の判決は、『課税を認めた判決』というより、『何が本当の争点なのかを整理した判決』と評価しています」と話す。
「一審は、債務免除による利益は相続後に新たに生じたものだから所得税の対象になると考えました。一方、東京高裁は実質的には相続財産と同じ経済的価値を持つ利益であり、相続税と所得税の双方を課すのは適切ではないとして納税者の主張を認めました。しかし最高裁は、『相続によって取得した財産』と『相続後に新たに生じた利益』は区別すべきだと判断しました。その意味で、今回の判決は『課税か非課税か』という結論を示したというより、『次に何を議論すべきか』を示した判決といえるでしょう」
最高裁は「課税できる」とは言っていない?
「最高裁が課税を認めた」と受け止められがちだが、判決文はそこまで踏み込んでいないようだ。
沖野眞已裁判官は補足意見で、「債務免除益に係る所得税課税の根拠及び要件については様々な議論がある」と指摘した上で、多数意見は所得税法9条の適用だけを判断したものであり、債務免除益が所得税法上の所得であることまでは判断していないと明記している。
貝井税理士も、「『最高裁が課税を認めた』という理解は必ずしも正確ではありません」と指摘する。
「最高裁が判断したのは、『相続だから所得税は非課税』という主張は認められないという点です。一方で、債務免除による利益そのものが所得税法上の『所得』に当たるのか、一時所得として課税できるのかについては判断していません。『二重課税という理由では非課税にならないが、課税できるかどうかはまだ決まっていない』と理解するのが最も正確でしょう」
