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「あの人からの〈おはよう〉は、セクハラです!!」は通るのか?
筆者は、企業向けにハラスメント研修を請け負うことが多くあります。その際、冒頭で必ず投げかけるのが、
「相手がセクハラだと思ったら、それはセクハラになると思いますか?」
という質問です。
すると、参加者の7~8割が「該当する」と回答します。そこで続けて、「該当する」と答えた方にこう尋ねます。
「では、男性社員が女性社員に『おはようございます』と挨拶をした。それを女性社員がセクハラだと感じたら、これもセクハラになるのでしょうか?」
そう問いかけると、今度は誰も手を挙げません。
相手が不快に感じればセクハラになる――。そもそも、この考え方は本当に正しいのでしょうか。
法律上の「セクハラの定義」とは?
厚生労働省の指針※1では、職場におけるセクシュアルハラスメントを次の2類型に分けて規定しています。
※1 厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措 置等についての指針」
第一に「対価型」。労働者の意に反する性的な言動への対応(拒否や抵抗)を理由に、解雇など労働条件上の不利益を与えるもの。
第二に「環境型」。性的な言動により労働者の能力発揮に重大な悪影響が生じるなど支障が生じるものです。
ここで注目すべきは、厚生労働省の指針も「相手が不快に感じたら直ちに成立する」とは規定していない点です。
「主観」を重視しつつ「客観」で線を引く
「相手がセクハラだと思ったらセクハラ」という話は、法的には「半分正しい」というのが正確な答えです。厚生労働省の資料※2でも、セクハラ該当性の判断について「被害を受けた労働者の主観を重視しつつも、一定の客観性が必要」との考え方が示されています。
※2 厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)『職場におけるハラスメント 対策パンフレット』
具体的には、被害者が女性であれば「平均的な女性労働者の感じ方」、男性であれば「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当とされています。
受け手の不快感は判断の出発点として不可欠ですが、最終的な該当性は平均的な女性または男性労働者を基準とした客観的評価で決まります。
「自分にそのつもりはなかった」「冗談だった」という行為者の主観や感覚で決まることはなく、その一方で「おはようございます」という一言のみでセクハラだという相談者がいるとすれば、平均的な女性または男性労働者がセクハラと感じるかというとこれも難しいかもしれません。
【実例】「いつものノリ」は免罪符にならない
これは筆者が関わった相談事例(一部事実関係を変更)です。
男性社員Aさんと女性社員Bさんは、周囲から見れば軽口を言い合い、ハイタッチをするような間柄でした。ある朝、挨拶をしながらAさんがいつものようにBさんの肩に触れたことをきっかけに、Bさんはそれまでの一連の言動についてセクハラであるとして金銭的な賠償を求め、最終的にAさん側が相当額を支払う形で解決に至りました。
本件では、Aさんの「ずっと嫌がっていなかった」「いつものことだった」という現場でよく聞かれる釈明は、ほとんど認められませんでした。
2026年10月から義務化…「就活ハラスメント」の防止措置
そして今、企業が注意すべきなのが、2026年10月から義務化される「就活ハラスメント」の防止措置です。企業規模を問わず適用され、中小企業への猶予期間はありません。
保護対象となる「求職者等」には、就活生だけでなくインターンシップ生、教育実習・看護実習等の実習生まで広く含まれます。厚生労働省の調査※3では、インターンシップ中の被害として「性的な冗談やからかい」が38.2%、「食事やデートへの執拗な誘い」が35.1%と報告されており、採用活動の現場も決して例外ではありません。
※3 「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」
「受け手の立場に立った言動」の徹底が防御策・リスク管理に
「相手が不快と思えばセクハラ」という言葉は、法的判断基準としては不正確ですが、法的にセーフかアウトかの境界線上で行動するのではなく、受け手の立場に立った言動を徹底することが、自分が加害者にならない防御策でありリスク管理となります。
そして2026年10月以降、その配慮の対象は社内の従業員から、採用の場で出会うすべての求職者へと広がります。
法改正が迫る中、会社の規程・ハラスメント研修・相談窓口など社外対応まで拡張できているか、いま一度社内体制の見直しが求められます。
山本 達矢
社会保険労務士法人WILL
代表社労士
特定社会保険労務士
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