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なぜいま、労働基準法が「抜本改正」されるのか?
労働基準法は1947年の制定から約80年が経過し、その間、人口構造の変化、働き手の価値観の変容、メンタル不調者の増加、テレワークの普及や副業・兼業の拡大、デジタル化など劇的に多様化しています。
今回、40年ぶりといわれる大改正では、すべての働く人の心身を「守る」視点と、多様な働き方を「支える」視点の両立が掲げられています。
労基法大改正「10のポイント」
労基法は今後の国会審議を経て、来年度以降に施行を目指しますが、現在議論が進んでいる10のポイントを解説します。
①企業による労働時間情報の開示
労働市場への透明性を高めるため、社内・社外への情報開示が検討されています。これにより、企業にとっては残業時間や有給取得率は新規求人や離職に直結する課題となり、働き手も自社の状況が客観的に把握できるようになります。
外部開示:転職の際、残業時間や有給取得率が確認できるようになる。
内部共有:労働者代表などに情報提供がされる。
②フレックスタイム制、柔軟に改善
現行のフレックスタイム制は、すべての日に適用する必要がありましたが、改正案では例えば月・水・金は通常の勤務時間で、火・木はフレックスが使えるハイブリッド方式「部分フレックス制度」を導入できるような法整備が提言されています。
③「週44時間特例措置」撤廃
現在、小売業や飲食業、病院や介護施設などの小規模事業場(10人未満)に認められている法定労働時間が週40時間→週44時間となる特例ですが、すでに約9割近くの企業が週40時間以下で運用している実態もあり、これに合わせて週40時間へ移行する検討が進められます。
昭和62年に行われた「週48時間→週40時間」の法改正の零細企業への激変緩和措置でしたが、ようやく役割を終えるかもしれません。
④管理監督者等の健康確保
いわゆる「管理職(管理監督者)」は労働時間規制の適用除外ですが、健康確保の措置が不十分であるとの指摘がありました。
管理職(管理監督者)といっても1人の労働者であることに変わりはありません。管理職(管理監督者)に対しても労働時間のインターバル制度や医師の面談など、健康確保や過重労働防止を義務付ける方向で議論されています。
⑤連続勤務の上限規制
現行法では、特例制度を使えば最大48日の連続勤務が可能ですが、労災の精神疾患の判断基準の1つに「2週間以上の連続勤務」
⑥法定休日の特定
現在、多くの企業では週休2日制をとっていますが、2日のうち、どちらが割増率1.35倍になる「法定休日」で、どちらが1.25倍になる「所定休日」かが曖昧なケースが多く見られます(給与担当者自身も分かっていないケースもあります)。
給与計算や休日労働の管理を明確にするため、あらかじめ法定休日を特定することを法律で義務付ける検討がなされています。
⑦勤務間インターバル制度の導入促進
終業から始業までに一定の間隔(休息時間)を置く制度です。一部を除いて2019年に9時間~11時間はこの間隔を設けるように努力義務化されていました。これが欧米を参考に原則11時間のインターバルを義務化することで議論されています。
努力義務(できるだけ守るように)ではなく、義務(守らねばならない)として一段階厳しくなる可能性があります。
⑧「つながらない権利」に関するガイドラインの策定
デジタル化が進み、昭和と比べて劇的に生産性が向上した一方で、退勤後や休日も仕事に追われているケースが増えています。
スマホやLINE、チャットツールで、いつでもだれとでも連絡が取れることのマイナス部分に対し、欧米を参考にルールを明確化し、時間外の連絡を拒否できる権利や、連絡可能な時間帯のルールを労使で協議することを促すガイドラインの策定が検討されています。
⑨年次有給休暇取得時の賃金算定方法
有給休暇中の給与計算には現在3つの計算方法(平均賃金、通常の賃金、標準報酬日額)がありますが、とくにパート・アルバイトは計算方法によっては金額が低くなる問題がありました。
今回の改正で、有給休暇を取得し安心して休めるよう、原則として「所定時間働いた場合に支払われる通常の賃金」を支払う方式へ統合していく方向です。
⑩副業・兼業の割増賃金算定方法
副業・兼業が進むなかでは、現行の法制度では、複数の会社で働く場合は労働時間を通算して残業代を計算しなければならず、企業の受け入れハードルになっていました。
過重労働防止のための労働時間通算は維持しつつ、残業代の計算上の通算については、各企業ごとに判断する(通算しない)という改正案が示されています。
労基法改正の国会提出を見送ったワケ
総理が新たに立ち上げた日本成長戦略会議と足並みを揃え、国際競争力を高めるために、より一歩踏み込んだ改正が行われる可能性もあります。
●残業時間そのものの上限規制撤廃または労働時間の柔軟化
●一部の業務に限定されている裁量労働制の拡大
●集(組織)でなく個(従業員個人)ごとの同意による労働時間のカスタマイズ化
これらの方針を反映した議論が来年以降に行われ労基法改正に盛り込まれるのではないでしょうか。
まとめ
今回示された10のポイントは、どれもが私たちの日常に直結するものばかりです。
●画一的な働き方を時代に合わせてより柔軟性を持たせること
●働き手が自分の意思で働き方を選択できる制度を広げること
●残業時間などの情報開示を進めて、働く人が「泣きを見ない」より公正で公平な社会を実現すること
戦後すぐに制定された法律には限界があり、これまで何度も法改正がされてきました。
①最低基準を定めて働き手の生活を守る、②労使で対等な立場でルールを決める、という労基法の基本理念を残しつつも、大改正が行われる労働基準法。
来年度以降も議論が進む労基法改正の影響は今後、企業だけでなく個人に対しても、「どう働きたいのか」、「どうありたいのか」を問われることになりそうです。
山本 達矢
社会保険労務士法人WILL
代表社労士
特定社会保険労務士
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