(※写真はイメージです/PIXTA)

国税庁が進める「取引相場のない株式」の評価方法見直しが、中小企業のオーナー経営者や事業承継実務に大きな影響を与える可能性が出てきた。7月3日に開かれた「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」(第4回)では、これまでの各委員意見が整理されるとともに、具体的な節税スキームが明らかにされた。議論の根底にあるのは、事業承継への配慮を評価制度のなかで行うのか、それとも税制上の特例として整理するのかという、日本の非上場株評価のあり方そのものを問い直す問題だ。昭和39年の制定以来、大枠を維持してきた評価ルールは、いま大きな転換点を迎えようとしている。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

小規模宅地等特例も「通達」から「法律」へ移った

実は、日本にも同様の前例がある。

 

小規模宅地等の特例は、もともと昭和50年6月20日付の個別通達として運用され、遺族の生活基盤維持や地価高騰への対応といった政策目的から、被相続人の事業用・居住用宅地について通常評価額の80%相当額で評価する取扱いだった。

 

その後、この従来の通達による取扱いを発展的に吸収する形で、昭和58年度税制改正において租税特別措置法上の特例として法定化された。

 

当時の竹下登大蔵大臣は衆議院本会議で、株式評価の改善合理化は評価通達の改正で対応する一方、小規模宅地の課税特例については「今回、最近における地価の動向をも踏まえて、従来の措置をさらに進めて…相続税の課税上特別の配慮を加えることとするものでありますから、今回、法律上明定する」と答弁している。

 

政策的配慮が必要なものは評価方法そのものではなく、税制上の特例で対応するという考え方であり、非上場株評価についても、将来的には同じ方向へ進む可能性がある。

国税庁が明かした具体的な株価引下げスキームと、その「歪み」

第4回会議では、これまで水面下で行われてきた具体的な節税スキームが、国税庁の資料によって白日の下にさらされた。

 

紹介された事例はいずれも、現行の評価ルールの「盲点」を突いたものだ。ここでは、特に圧縮額が大きく、手法の巧妙さが際立つ4つの事例を具体的に見ていきたい。

 

①組織再編とグループ内寄付による「大会社へのすり替え」(評価額▲100億円/税額▲55億円)

上場株式を大量に保有するオーナーが、資産管理会社(X社)を設立して株式を現物出資する。そのままではX社は「株式保有特定会社」などに該当し、株価は高く評価されてしまう。

 

そこで、同族の別会社(Y社)に従業員を転籍させるなどして規模を大きくし、評価方式が最も有利な「類似業種比準方式(大会社)」を適用できる状態を作る。

 

その上で、X社が持つ上場株式を、グループ法人税制を利用して無課税のままY社へ寄附する。これにより、本来なら上場株式の時価で課税されるべき資産が、類似業種比準方式という極めて低い評価額へと「すり替え」られ、巨額の圧縮が実現した。

 

②「無議決権株式」と「世代飛ばし」の組み合わせ(評価額▲19億円/税額▲10億円)

会社の支配権(議決権)は後継者に集中させつつ、財産的価値だけを分散させる手法だ。

 

資産管理会社を設立する際、議決権のない株式を大量に発行する。そして、後継者の子供たち(オーナーから見た孫世代)を、税法上の「中心的な同族株主以外の同族株主」となるよう株主構成を調整する。

 

こうすることで、孫への贈与時には、本来の原則的評価ではなく、極めて評価額が低くなる「配当還元方式」を適用させることが可能になる。支配権を維持したまま、次世代を飛ばして孫へ格安で財産を移転させる典型例である。

 

③航空機リースを利用した「意図的な赤字」の創出(評価額▲10億円/税額▲5億円)

法人の利益と純資産を一時的に激減させ、株価が下がったタイミングで贈与を行うスキーム。

 

資産管理会社が借入れを起こして中古航空機を購入し、海外の航空会社等とオペレーティングリース契約を結ぶ。税法上認められている簡便法や定率法を用いることで、購入直後の事業年度に多額の減価償却費(損金)が発生し、会社の利益と純資産が帳簿上、急激に圧縮される。この株価が底を打った瞬間に子供へ株式を贈与し、リース期間が終了して航空機売却益により株価が回復するのを待つという、タイミングをコントロールした手法だ。

 

④株主構成の操作による「配当還元方式」の全面濫用(評価額約98%減)

現行制度において、最も圧縮率が高かった事例(98%近くを圧縮)。

 

創業家一族やその関係者が保有する議決権を、グループごとに細かく分散させ、どのグループも「議決権15%未満」に収まるよう周到に株主構成を設計する。これにより、会社全体として「同族株主のいない会社」という判定を作り出し、全株主が例外的な評価方法である「配当還元方式」で自社株を評価できるようにする。

 

本来なら数百億円の価値がある企業の株式が、数億円程度にまで買い叩かれたような評価額へと合法的に圧縮されてしまう。

次ページ「法の精神」と「ルールの網の目」の乖離

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