(※写真はイメージです/PIXTA)

国税庁が公表した「令和7年度査察の概要」によると、全国の国税局査察部が着手した査察件数は131件となり、前年から20件減少した。告発件数も82件と、前年を16件下回っている。一見すると、脱税事件そのものが減少しているようにも見える。しかし、その中身を詳しく見ると、別の実態が浮かび上がる。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

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着手件数は減少、それでも1件当たり脱税額は近年で最高水準に

告発事案82件の脱税総額は84億円に上り、1件当たりの脱税額は約1億200万円となった。国税庁が公表した過去5年間(令和3〜7年度)のデータで比較すると、この水準は同期間で最も高い。査察がより悪質で大規模な案件へ重点を移していることを示している。

 

国税当局は限られた人員と時間のなかで、社会的影響の大きい案件や巧妙化した脱税手法への対応を優先しているとみられる。

「少額大量」から「悪質大口」へ 査察の重点が変化

税務調査と査察は似ているようで役割が異なる。

 

一般的な税務調査は申告内容の誤りを是正する行政手続きであるのに対し、査察は悪質な脱税が疑われる場合に刑事責任の追及を前提として実施される。いわゆる「マルサ」が担当し、最終的には検察庁への告発を目指す。

 

今回の結果を見ると、査察は従来の「少額案件を数多く摘発する」というスタイルから、「悪質で社会的影響の大きい大口案件を重点的に摘発する」方向へシフトしているようにも見える。

 

企業経営者や資産家にとっては、「複雑な取引なら見つからない」「規模が大きければ目立たない」という発想が通用しにくくなっていることを示すデータともいえる。

マルサOBが抱く危機感 「脱税者が減っているとは思えない」

もっとも、査察件数の減少については、現場を知る元査察官から異なる見方も示されている。

 

1988年から2007年まで合計17年間、東京国税局査察部の内偵調査部門に在籍した上田二郎税理士は、令和7年度の査察実績について次のように語る。

 

「OB査察官の率直な実感として、今回の“脱税”白書は残念でならない」

 

上田氏によると、在籍当時の東京国税局では年間80件の着手が必達目標だった。一方、令和7年度の東京国税局の着手件数は36件にとどまっている。

 

さらに、そのうち5件は消費税事案であり、法人税事案と消費税事案は一体的に処理されることが多く、重複計上の側面もあるという。

 

「法人税事案と消費税事案はおおむね連動処理です。ダブルカウントになっていることを考慮すると、実質の着手件数は30件程度になります。それに対して33班の内偵班が配置されているわけですから、単純計算では1班1件の内偵立件です」

 

査察部には、年間を通じて1件も立件できなかった班を揶揄して「ドボン班」と呼ぶ言葉があったという。

 

「昔はドボン班という言葉がありましたが、今の数字を見ると、ドボン班どころかドボン部門があってもおかしくない計算になります」

 

一方で、上田氏は環境変化にも理解を示す。

 

「脱税の国際化やICT化、暗号資産の登場によって、脱税の端緒を見つけにくくなったことは間違いありません。しかし、だからといって脱税者そのものが減っているとは思えないのです」

SNS、海外取引、消費税不正還付…「見えにくい脱税」へのシフト

令和7年度の査察概要で特徴的なのは、脱税の形態そのものが社会構造の変化を反映している点である。

 

美容系インフルエンサー関連会社では、架空の業務委託費を計上して法人税・消費税を免れていた事案が告発されたほか、SNSを通じて海外向けにイラスト販売を行う事業者が売上除外により所得税を免れていたケースも確認されている。

 

従来の現金商売中心の脱税から、オンライン上で完結するビジネス領域へと舞台が広がっている。

国際化する脱税 海外法人・国外資金への監視強化

海外法人を利用した所得隠しや、国外資金の秘匿といった国際事案も引き続き重点対象となっている。

 

日用品輸入業者やコンサルタント会社では、海外取引を仮装した架空仕入れなどによる脱税事案が摘発されている。

 

国税当局は租税条約や金融口座情報の自動交換制度を活用し、海外資産の把握を進めている。グローバル化の進展に伴い、脱税の国際化と監視の高度化が同時に進んでいる構図だ。

消費税不正還付と「国庫金の詐取」

消費税事案については、「国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い事案」として厳格な対応が取られている。

 

再生資源輸出会社や産業廃棄物処理会社などでは、架空取引や虚偽の課税仕入れ計上による不正還付事案が摘発された。

 

消費税は預り金的性格を持つため、不正還付に対する社会的批判も強い。

脱税指南グループに懲役6年

令和7年度には、脱税スキームを複数の納税者に提供していた指南グループの首謀者に対し、懲役6年の実刑判決が下された。

 

SNSやオンラインコミュニティを通じて脱税スキームが拡散するなか、組織的関与に対する司法の姿勢は一段と厳しさを増している。

脱税の代償は税金だけでは終わらない

脱税が発覚すれば、追徴税額だけでなく重加算税や延滞税が課される。さらに悪質な場合には刑事告発や有罪判決に至る。

 

企業にとっては金融機関や取引先からの信用失墜という長期的なダメージも避けられない。

マルサOBが見た「本当の論点」

今回の査察結果をめぐり、上田氏はさらに踏み込んだ見方を示す。

 

「脱税の手口が巧妙化しているのは事実ですが、それ以上に感じるのは、“摘発できる余地そのものが狭くなっているのではないか”という点です」

 

デジタル化や国際化により発見は難しくなっている一方、経済活動は拡大しており、見えない領域への移行が進んでいる可能性もある。

 

「脱税者が減っているというより、“見つけにくい層に移動している”というのが実感に近いかもしれません」

 

そのうえで、査察の本質に言及する。

 

「マルサの本質は、単なる税務執行ではなく、経済の歪みを正面から捉えることにあります。かつてマルサには、輸入豚肉に横行していた差額関税の脱税“裏ポーク”問題などに切り込む気概がありました。本来、輸入豚肉の監視は税関のテリトリーですが、マルサが強制調査を行って巨額脱税を解明したのです。国民はマルサに、このような国税の領域(法人税や消費税)にとどまらず、隣接する経済犯にも目を光らせ、埋もれる脱税を見つけ出すことを期待しています。“巨悪を眠らせない”という原点は、今も変わっていないはずです」

大規模・悪質案件への集中は今後も進む可能性

令和7年度の査察結果は、件数の減少と1件当たり脱税額の増加という対照的な傾向を示した。

 

限られた資源を社会的影響の大きい案件に集中させる流れは今後も続く可能性がある。一方で、脱税手法の高度化・国際化も進んでおり、摘発の難易度は上昇している。

 

企業経営者や個人事業主にとっては、適正申告の徹底とコンプライアンス意識の重要性が一段と高まっている。


 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

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