(※写真はイメージです/PIXTA)

「相続時には高い評価額で税金を取りながら、国が引き取った後は9割引で売却するのはおかしいのではないか――」財務省が検討している、相続土地の最大93%減額制度を巡り、SNSではこうした疑問の声が広がっている。「国が地面師になった」「詐欺ではないか」といった厳しい意見も見られ、制度への違和感を持つ人は少なくない。確かに、相続時には高く評価されていた土地が、国の手に渡った後、大幅な値下げを前提として処分されるのであれば、不公平に感じるのも無理はない。しかし、財務省が6月17日の財政制度等審議会国有財産分科会で示した資料を確認すると、今回の制度は「高値で取り上げて安値で転売する仕組み」とは、かなり異なる実態が見えてくる。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

 ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中! 

父が溶かした退職金【上巻】・【下巻】
小林篤典(著)+ゴールドオンライン(編集)

シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!

最大93%減額は「売れない土地」の処分策

財務省が示した方針では、相続土地国庫帰属制度によって国が引き取った土地について、売却価格を段階的に引き下げる仕組みを導入するという。

 

まず、測量や地下埋設物調査を行わない「現状有姿売買」を前提として、当初価格から30%減額する。その後、3ヵ月間買い手が現れなければ、さらに10%ずつ引き下げ、最終的には当初価格の7%、すなわち最大93%減まで下げることを想定している。

 

もっとも、これは最初から9割引で売るという話ではない。

 

一般競争入札を実施しても買い手が現れず、価格を下げてもなお需要が見込めない場合の最終的な処分方法として検討されているものだ。

 

財務省自身も、国庫に帰属した土地について、「市場性に乏しく、長期間保有し続けることが想定される」と説明している。

国が引き取った土地も「売却実績ゼロ」

なぜ、ここまで大幅な値下げが必要なのか。

 

背景には、国が引き取った土地が、ほとんど売れていないという現実がある。財務省資料によると、2026年3月末時点で、財務局が管理する相続土地は1,586件に達した。一方、一般競争入札による売却実績はゼロとなっている。

 

対象となる土地の多くは、都市部の高額不動産ではない。人口減少が進む地域の宅地や農地、利用価値の低い土地など、民間でも買い手が見つからないケースが中心だ。財務省の分析では、約85%が500万円以下の土地であるという。

 

国が利益を得るために安く転売しているのではなく、国自身も「処分できない土地」を抱えている状況にあるといえる。

相続税評価と売却価格は同じものではない

SNS上では、「相続時には高額な評価で税金を払い、国は後から安く売る」というイメージが広がっている。

 

しかし、相続税の評価額と、今回の売却価格は、そもそも異なる仕組みの上に成り立っている。

 

相続税は、国税庁の財産評価基本通達に基づき、路線価や固定資産税評価額などをもとに算定される。また、3,000万円に法定相続人1人あたり600万円を加えた基礎控除があり、小規模宅地等の特例なども適用される。

 

そのため、「1億円の土地なら5,000万円の相続税を払う」という単純な構図になるケースは限定的だ。

 

一方、今回の93%減額は、国が引き取った後も買い手が見つからない土地を、いかに処分するかという国有財産管理上の問題である。

 

相続専門サイト「24時間相続」を運営する貝井英則税理士(シェル総合会計事務所代表)は、そもそも土地には複数の価格概念が存在すると説明する。

 

「土地には、地価公示価格、路線価、固定資産税評価額、実勢価格など、さまざまな価格があります。それぞれ所管する行政機関や利用目的が異なるためです。実勢価格は通常の市場で成立すると考えられる価格であり、実際の売却価格は、その実勢価格を基準として市場環境や交渉状況などによって上下します」

 

実務上、通常であれば、実際の売却価格と相続税評価額が極端に乖離するケースは多くないという。

 

一方で、例外も存在する。タワーマンションでは市場価格と相続税評価額の大きな乖離が問題となり、評価方法の見直しが行われた。また、長野県白馬村や北海道富良野市、熊本県菊陽町のように、インバウンド需要や半導体関連企業の進出によって地価が急上昇した地域では、路線価の改定が追い付かず、一時的に実勢価格との開きが生じることもある。

 

逆に、地方の山林や原野、利用価値の低い土地では、相続税評価額が付いていても、実際にはその価格で売却できないケースも少なくない。

 

貝井税理士は、「相続税評価額は税負担を公平にするための評価額であり、実勢価格や実際の売却価格とは目的が異なります。それぞれの価格の意味を理解し、混同しないことが大切です」と指摘する。

 

もちろん、相続税評価額と実勢価格の乖離については、以前から議論が続いている。特に、地方の山林や農地などでは、税務上の評価額よりも実際の売却価格が大きく下回るケースもある。

次ページそもそも、高額な相続税の対象なのか?

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧