(※写真はイメージです/PIXTA)

国税庁が進める「取引相場のない株式」の評価方法見直しが、中小企業のオーナー経営者や事業承継実務に大きな影響を与える可能性が出てきた。7月3日に開かれた「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」(第4回)では、これまでの各委員意見が整理されるとともに、具体的な節税スキームが明らかにされた。議論の根底にあるのは、事業承継への配慮を評価制度のなかで行うのか、それとも税制上の特例として整理するのかという、日本の非上場株評価のあり方そのものを問い直す問題だ。昭和39年の制定以来、大枠を維持してきた評価ルールは、いま大きな転換点を迎えようとしている。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

「時価」と「簡便性」をどう両立させるか

相続税法22条は、財産を「時価」で評価すると定めている。判例は、この「時価」を「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価額」(客観的交換価値)と解した上で、財産評価基本通達が定める画一的な評価方法について、「納税者間の公平の確保、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地」から合理性を認めてきた(平成7年6月30日東京地裁判決)。

 

有識者会議の資料でも、財産評価基本通達に求められる3つの原則として、安全性(評価額が時価を上回らないこと)、統一性(全国一律の評価)、簡便性(画一的な評価が可能なこと)が確認されている。

 

仮にすべての非上場企業についてDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)など高度な企業価値評価を義務付ければ、納税者にも税務行政にも大きな負担が生じる。

 

令和元年10月10日大阪高裁判決も、公認会計士等による評価を義務付けることは国民に過度の負担をかけ、法定期限内の納税申告等に支障をきたし得るとの旨を示し、通達による画一的な評価を容認してきた。

 

実態に近い評価と使いやすい制度をどう両立させるか。有識者会議では、原則的評価方式をインカムアプローチ(DCF法や残余利益モデル)に一本化すべきだとする意見が出た一方、「中小企業の株式評価にDCF法を用いるのは困難なのではないか」との慎重論もあり、評価方式の一本化自体についても意見が分かれている。

ドイツは「評価」と「事業承継支援」を切り離した

有識者会議では、海外制度も参考として紹介された。そのなかでも注目されるのがドイツである。

 

ドイツ連邦憲法裁判所は2006年11月7日、事業用財産についてのみ評価段階で優遇措置(税務貸借対照表価額)を認めていた1996年改正法を問題視し、財産評価は通常価額での計算を維持すべきだと判断した。同判決は、事業用の積極財産の評価が低く抑えられる一方で債務は額面金額で認識されるという、評価の不整合も指摘している。

 

ただしこの判決は、事業承継への優遇特例そのものを否定したわけではない。評価段階では一律の基準を適用すべきとしつつ、評価後に行う特例措置の段階であれば、合理的な理由がある限り優遇を認める余地を残した。

 

これを受けて2009年に施行された改正相続税法では、すべての財産について通常価額での評価を実現した上で、評価後の特例措置の段階で事業用財産を含む優遇を拡充した。給与総額が5年間で400%以上、管理資産50%以下という条件を満たせば、事業用財産に対して少なくとも85%の評価減額特例を適用できる仕組みで、これが現行のドイツ事業承継税制の原型となっている(従業員数20人以下の事業者は給与総額条件が免除される)。

 

つまり、企業価値は適正に評価し、事業承継支援は評価後の税制上の優遇措置で行うという考え方であり、日本の現行制度とは対照的なアプローチといえる。

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