(※写真はイメージです/PIXTA)

親に介護が必要でも、家族は「施設に入ってもらうこと」に罪悪感を抱くことがあります。自宅で支えたい気持ちがあっても、仕事や家庭、体力の限界から、介護施設を選ばざるを得ない場合もあります。特別養護老人ホームへの入居は、介護を放棄することではなく、本人と家族の生活を守るための選択肢の一つです。

「もう帰るのか」…その一言であふれた涙

特養の玄関に着くと、職員が笑顔で迎えてくれました。

 

「昭男さん、今日からよろしくお願いしますね」

 

昭男さんは少し緊張した顔でうなずきました。真由美さんは手続きの説明を聞き、居室に荷物を運びました。部屋は明るく、ベッドも清潔でした。窓際には、家から持ってきた写真立てを置きました。

 

「お父さん、ここにお母さんの写真を置いておくね」

 

昭男さんは、しばらく写真を見つめていました。

 

「いいな」

 

短い返事でした。

 

荷物を整理し終えると、職員が食堂や浴室の場所を案内してくれました。真由美さんは、施設の説明を聞きながら、何度も「これでよかったんだ」と自分に言い聞かせました。

 

しかし、帰る時間が近づいたとき、昭男さんがぽつりと言いました。

 

「もう帰るのか」

 

その声は、責めるようなものではありませんでした。ただ少し不安そうで、少し寂しそうでした。

 

その瞬間、真由美さんの中で張りつめていたものが切れました。

 

「泣くつもりなんてなかったのに……」

 

廊下に出た途端、涙が止まらなくなりました。職員が静かに椅子を勧めてくれました。

 

この日を待っていたはずでした。夜中の電話におびえずに眠れる。仕事中に父の転倒を心配し続けなくていい。そう思っていたはずなのに、父を置いて帰る自分が、まるで親を見捨てる人間のように感じられたのです。

 

職員は、真由美さんに言いました。

 

「ご家族が限界まで支えてこられたから、今日まで自宅で過ごせたんですよ」

 

施設に入ることは、親子の関係が終わることではありません。食事や排せつ、入浴などの介護を専門職に任せることで、家族は面会や会話、思い出を共有する時間に向き合えるようになることもあります。

 

真由美さんも、入居後は週末に父を訪ねるようにしました。最初は父も落ち着かない様子でしたが、職員に声をかけられ、食堂でほかの入居者と過ごす時間も増えていきました。

 

介護を家族だけで抱え込むと、本人にも家族にも限界が来ます。特養への入居は、冷たい選択ではありません。必要な支援につながることで、親子の関係を守るための選択でもあります。

 

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

 

「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧