「これで少し楽になるはず」…父の入居日まで走り続けた娘
真由美さん(仮名・54歳)は、82歳の父・昭男さん(仮名)の介護を3年近く続けてきました。
昭男さんは年金月16万円ほどで一人暮らしをしていましたが、脳梗塞の後遺症で歩行が不安定になり、要介護3の認定を受けました。最初は訪問介護やデイサービスを利用しながら、真由美さんが週に何度も実家へ通っていました。
仕事帰りにスーパーで買い物をし、実家に寄って冷蔵庫の中を確認する。薬を飲んだかを見て、洗濯物を片づけ、翌日のデイサービスの持ち物を準備する。帰宅するころには夜遅くなり、自分の家のことは後回しでした。
「お父さん、大丈夫?」
真由美さんが聞くと、昭男さんはいつも同じように答えました。
「大丈夫だ。悪いな」
その言葉を聞くたび、真由美さんは胸が痛みました。父は娘に迷惑をかけたくないと思っている。だからこそ、自分が頑張らなければならない。そう思っていました。
しかし、介護は少しずつ重くなっていきました。夜間に転倒して救急搬送されたこともありました。ガスの消し忘れがあり、近所の人から連絡が入ったこともあります。真由美さんは仕事中もスマートフォンを手放せなくなりました。
母はすでに亡くなっており、きょうだいは遠方に住んでいます。相談はできても、日常的に動くのは真由美さんでした。
厚生労働省の介護保険制度では、特別養護老人ホームは原則として要介護3以上の人が入所対象とされています。昭男さんも条件に該当し、ケアマネジャーの勧めで申し込みをしました。
申し込みからしばらくして、空きが出たという連絡が入りました。
「よかった」
最初に出た言葉は、それでした。
真由美さんは、そう思った自分に少し罪悪感を覚えました。それでも限界は近づいていました。
入居日まで、真由美さんは荷物の準備に追われました。衣類に名前を書き、保険証や薬の説明書をそろえ、父の好きな湯のみや写真も小さな袋に入れました。
「これで少し楽になる」
そう自分に言い聞かせながら、当日の朝を迎えました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得約11.8万円に対し、消費支出は約14.8万円で、平均では毎月約3万円の不足が生じています。昭男さんの年金月16万円は平均よりやや多いものの、介護サービス費や医療費、施設入居に伴う日用品費などを考えると、費用の確認は欠かせませんでした。
