「お金を貯められてよかったね、さようなら」息子からの絶縁宣言
聡さんが巣立った後も、後藤さんが節約の手を止めることはありませんでした。退職金が入ると、妻を連れて近場の温泉へ。「あと5年たったら自由だ。そうしたら老後はゆったりと暮らせるぞ」……そんな話をしたといいます。
ところが、妻は脳出血で急逝。老後は来ませんでした。葬儀が終わると、後藤さんは聡さんにこう伝えます。
「親ひとり、子ひとりになってしまったな……。でも、実は5,000万円以上貯金があるんだ。お前に迷惑はかけないから安心しろよ」
しかし、それ以降、聡さんは実家にまったく帰ってこなくなったのです。
「お前、なんで帰ってこないんだ」
耐えかねた後藤さんが苛立ちをぶつけると、返ってきたのは、思いもしない言葉でした。
「小さい頃からずっと、うちはお金がないって言ってたよね。だから、欲しいものも我慢して、行きたい大学も諦めた。妥協して入った大学の奨学金を、俺は今も返済し続けてる。でも、お金はあったんだ」
聡さんの声は震えていました。
「それだけじゃない。お母さんに我慢ばかりさせてたよね。何のために働いて、あんなに節約させられてたの? 家族の幸せを犠牲にして、お金を貯められてよかったね。僕はもう二度とここには来ないから、そのお金で生きていってください」
聡さんの静かな怒りに、後藤さんは言葉を失いました。「お金がない」という口癖は、息子にとっては家族に我慢を強いる“呪いの言葉”だったのです。
それから1年半ほどして、聡さんが結婚したということを親族経由で後藤さんは知ることに。後藤さん自身への報告はありません。
資産に不安はなく、健康状態もまずまずの老後。それなのに、胸に広がるのは、圧倒的な虚しさだけです。
