「2週間くらい」のはずが…届き続ける娘の荷物
「少しの間だけ、泊めてもらってもいい?」
長女の美香さん(仮名・41歳)からそう連絡があったのは、夏休みが始まる少し前のことでした。
父の隆夫さん(仮名・74歳)と母の和子さん(仮名・72歳)は、住宅ローンを完済した戸建てで二人暮らし。年金は合わせて月約23万円です。
美香さんは10歳の息子と夫の3人で暮らしていました。
「夫婦でちょっと揉めていて、しばらく距離を置きたい」
詳しい事情までは話さなかったものの、隆夫さん夫婦も「2週間程度なら」と受け入れました。
孫が来ること自体はうれしいことでした。使っていなかった子ども部屋に布団を出し、和子さんは孫の好きな料理を用意しました。
ところが、2週間が過ぎても美香さんは帰る様子を見せません。
「いつ頃戻るの?」
和子さんが尋ねても、「もうちょっとかな」と曖昧な返事をするだけでした。
さらに気になったのが荷物です。最初は大きなスーツケースひとつだったのに、数日おきに宅配便が届くようになりました。
衣類、子どもの本、ゲーム機、季節外れの布団。廊下の隅には段ボールが積み上がり、空いていた部屋も次第に荷物で埋まっていきました。
ある日、また大きな箱が届いたのを見て、隆夫さんが言いました。
「美香、これ全部持ってきて、いつ出ていくつもりなんだ?」
美香さんは黙り込みました。そして、しばらくしてこう答えました。
「……もう、戻る家はないの」
夫とはすでに離婚に向けて話が進んでおり、それまで住んでいた部屋も退去していたのです。住まいは夫名義の賃貸で、美香さんと息子の荷物だけを少しずつ実家へ送っていました。
隆夫さん夫婦は、初めてその事実を知りました。
「てっきり夫婦げんかで帰ってきただけだと思っていました。まさか、もう家を引き払っていたなんて」
厚生労働省『令和3年度 全国ひとり親世帯等調査』によると、母子世帯になった理由は「離婚などの生別」が93.5%を占めています。また、母子世帯の母の86.3%は就業しています。離婚後も働きながら子どもを育てる世帯は多く、住居や家計を短期間で立て直さなければならないケースもあります。
しかし、娘の事情を知ったからといって、隆夫さん夫婦の戸惑いが消えたわけではありませんでした。
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