(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後は、自然の多い土地でのんびり暮らしたい――。都会の喧騒を離れ、広い家や庭のある生活に憧れる人もいるでしょう。一方、旅行で訪れるのと、そこで毎日暮らすのとでは事情が異なります。特に年齢を重ねると、買い物や通院、移動手段などが生活のしやすさを大きく左右します。

「家も安いし、空気もきれい」70代夫婦が決めた地方移住

「ここなら、老後をゆっくり過ごせそうだね」

 

博之さん(仮名・72歳)と妻の美代子さん(仮名・70歳)は、内見した古い一戸建ての縁側から山を眺めながら、そう話しました。

 

夫婦は長年、都市部のマンションで暮らしていました。博之さんの退職後、夫婦の年金は月約27万円。住宅ローンは完済し、貯蓄も約3,600万円ありました。

 

生活に困っていたわけではありません。ただ、退職後に自宅で過ごす時間が増えると、博之さんは「せっかくなら自然の近くで暮らしたい」と考えるようになりました。

 

旅行で何度か訪れた地方の町が気に入り、移住情報を調べ始めます。候補になったのは、人口2万人ほどの山あいの町でした。

 

中古住宅は土地付きで約1,200万円。都市部のマンションを売却すれば、十分に購入できます。庭もあり、近くには温泉もありました。

 

「都会にいるより生活費も安くなると思っていました」

 

美代子さんも賛成しました。マンションを約4,500万円で売却し、新居の購入やリフォーム、引っ越しなどに約1,700万円を使いました。残った資金を考えても、老後は十分暮らしていけると判断しました。

 

引っ越した直後は、理想通りでした。朝は鳥の声で目を覚まし、庭で野菜を育てます。近所の人から採れたての野菜をもらうこともありました。

 

ところが、最初の冬を迎えるころから、少しずつ不便が目立ち始めます。最寄りのスーパーまでは車で20分。駅までも車が必要です。

 

近所に診療所はありましたが、美代子さんが定期的に通う専門科のある病院までは片道40分以上かかりました。

 

国土交通省『令和5年度 住宅市場動向調査』では、住宅取得時に重視した点として、住宅そのものの条件だけでなく「交通の利便性」「日常の買い物環境」なども挙げられています。高齢期の住まいでは、価格や広さに加えて、日々の生活動線を確認することが欠かせません。

 

夫婦にとって、特に大きな問題になったのが車でした。

 

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