30年来の夢だった世界一周、帰国した翌朝に感じた違和感
「いつか仕事を辞めたら、世界を一周してみたい」
修司さん(仮名・68歳)は、30代のころからそう話していました。
大学卒業後はメーカーに勤務し、65歳まで再雇用で働きました。妻とは10年前に離婚し、2人の子どもはすでに独立しています。
退職時の金融資産は約6,500万円。住宅ローンを完済したマンションもあり、年金は月約19万円でした。もともと浪費をするタイプではなく、現役時代から給与の一部を積み立て、退職金にもほとんど手を付けていませんでした。
そして67歳のとき、念願だった世界一周旅行を決断します。
約4ヵ月かけ、ヨーロッパや北米、南米などを巡る旅です。航空券、宿泊費、現地ツアー、食事などを合わせ、支出は約430万円。帰国時の貯蓄は約6,000万円になっていました。
「これだけは元気なうちにやりたかった。お金を使った後悔はありません」
旅先では毎日が刺激的でした。
朝起きれば知らない街があり、翌日の移動方法を調べ、現地で知り合った旅行者と食事をする。スマートフォンには何千枚もの写真が残りました。
帰国した日の夜も、「やり切った」という満足感でいっぱいだったといいます。ところが翌朝、自宅で目を覚ますと、妙な感覚に襲われました。
「今日は何をすればいいんだろう」
朝食を済ませても予定はありません。翌日も、その次の日も同じでした。
旅の途中なら、次の街へ向かうという目的があります。しかし帰国後は、散歩をしてスーパーへ行き、テレビを見るだけで一日が終わります。
「旅行中は早く家の布団で寝たいと思っていたのに、帰ったら今度は旅行中の写真ばかり見ていました」
友人に土産を渡し、子どもたちに旅の話をする。それも数週間で終わりました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上で何らかの社会活動に参加した人のうち、生きがいを「十分感じている」「多少感じている」と答えた割合は84.6%で、活動に参加しなかった人より23.0ポイント高くなっています。退職後の充実には、自由な時間を得るだけでなく、人とのつながりや継続的な活動を持つことも関わっています。
修司さんは、自分が「世界一周のために退職後を生きていた」ことに、帰国して初めて気づきました。
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