「働いてきたからこそ」減ってしまった遺族年金
由美子さん自身の年金は、月13万円ほどでした。内訳は老齢基礎年金と、自分が長年働いて得た老齢厚生年金です。一方夫の年金月24万円のうち、遺族厚生年金の計算対象になる報酬比例部分は、月16万円ほどでした。
その4分の3は、月12万円です。
しかし、由美子さんには自分の老齢厚生年金があります。仮に由美子さんの老齢厚生年金が月8万円だった場合、遺族厚生年金として上乗せされるのは、単純に12万円全額ではなく、自分の老齢厚生年金との差額分になります。
結果として由美子さんが受け取れるのは、自分の老齢基礎年金と老齢厚生年金に、調整後の遺族厚生年金を加えた金額でした。
職員は説明しました。
「奥さまが働いてこられたことで、ご自身の老齢厚生年金があります。その分、遺族厚生年金との調整が行われます」
由美子さんは複雑な気持ちになりました。長く働き、自分の年金を積み上げてきたことは確かです。しかし夫を亡くした後の生活を考えると、「4分の3もらえる」という思い込みとの落差は大きいものでした。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得約11.8万円に対し、消費支出は約14.8万円で、平均では毎月約3万円の不足が生じています。
由美子さんは家計を見直しました。食費は減っても、固定資産税や火災保険、家の修繕費は変わりません。通院費もかかります。夫婦で暮らしていたころの感覚のままでは、貯蓄の取り崩しが早まる可能性がありました。
「夫が亡くなった悲しみの中で、お金のことを考えるのはつらかったです。でも、知らないままでは暮らしていけません」
由美子さんは、年金事務所で受け取った資料をもとに、毎月の収入と支出を書き出しました。不要な保険を見直し、車の維持も考え直しました。すぐに生活が苦しくなるわけではありませんが、「思っていたより余裕はない」と気づいたのです。
遺族年金は、遺された家族を支える大切な制度です。ただしその金額は家族構成、年齢、死亡した人の年金額、本人の年金額によって変わります。「夫の年金の4分の3」と覚えているだけでは、実際の受給額を見誤ることがあります。
特に、妻自身が定年まで働き、老齢厚生年金を受け取っている場合は、遺族厚生年金との調整を確認しておく必要があります。
由美子さんは、今も夫のいない食卓に慣れないといいます。それでも、年金の仕組みを知ったことで、これからの暮らしを現実的に考え始めました。
「働いてきたことは後悔していません。ただ、制度のことをもっと早く知っておけばよかった」
遺族年金は、悲しみの中で向き合う制度です。だからこそ、元気なうちに夫婦で年金の内訳を確認しておくことが、残された家族の生活を守ることにつながるのかもしれません。
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