退職金1,200万円の誤算。60代で迎えた「定年」という名の崖っぷち
そして今。60代になった坂本さん夫婦は、窮地に立たされていました。「なんとかなる」と思っていた未来予想図が、ことごとく崩れ去ったのです。
60歳の定年時に1,200万円の退職金は支給されました。しかし、いざ住宅ローンの残債を確認すると、まだ約1,600万円が残っていました。
坂本さんは、漠然と「退職金が入ればローンはほとんど片付くだろう」と考えていました。しかし現実には、退職金をすべて返済に充てても完済には届きません。
「退職金で完済して、老後は身軽になるつもりでした。でも、実際には数百万円足りなかった。かといって退職金を全部使ってしまえば、老後資金がなくなる。その現実を前に、返済する決断ができませんでした」
結局、将来への恐怖から退職金には手をつけられず、そのまま定期預金に封印せざるを得ませんでした。
60歳で再雇用になると、坂本さんの年収は約600万円から350万円へと大幅ダウン。定年後に給料がある程度下がることは認識していましたが、ここまでの大幅減は想定できていませんでした。
厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、男性(正社員)55~59歳の平均給与は月45.9万円に対し、男性・正社員以外の60~64歳の月収は平均29.8万円。正社員から正社員以外になることで、月収は大幅に減少。坂本さんのような減収は決して珍しくはありません。
追い打ちをかけたのが「マンション維持費の値上がり」でした。購入当初は1万5,000円だった管理費と修繕積立金が、築年数の経過と物価高騰に伴い、12年目の今では毎月3万5,000円にまで跳ね上がっていたのです。
ローンの8万5,000円と維持費を合わせると住居費だけで毎月12万円が吹き飛びます。現役時代ならまだしも、収入が激減した身には、想像を絶する厳しさでした。
激しい夫婦喧嘩の果て
また、手元の生活費を増やすため、パートで稼ぐと言っていた妻の真美さんでしたが、慢性的な腰痛や体調不良に悩まされるようになり、思うように動けませんでした。結局、月5万円程度の軽いアルバイトにとどまったのも誤算でした。
年齢とともに夫婦の医療費は増え、車の買い替えなどの臨時支出も重なります。家計は毎月赤字続き。お金に余裕がなくなった結果、夫婦の間には「あなたがもっと夜勤のバイトでもしてよ」「そもそも君が団地を出たいと言ったんだろ!」と、罵り合いが絶えなくなっていました。
返済のストレスで家庭がギスギスする。年金暮らしを5年後に控え、この先どうなるのかという恐怖が坂本さんを襲いました。

