(※写真はイメージです/PIXTA)

収入があっても、老後資金が順調に貯まっているとは限りません。住宅ローンや教育費、親への援助、物価上昇などが重なると、家計は見えないところで圧迫されていきます。夫婦のどちらか一方に管理を任せきりにしていると、定年が近づいたころになって、初めて厳しい現実を知ることもあります。

「年収750万円なら大丈夫」…そう思っていた夫の油断

誠一さん(仮名・57歳)は、メーカー勤務の会社員です。年収は約750万円。管理職ではありませんが、長く勤めてきたこともあり、家計は安定していると思っていました。

 

妻の芳美さん(仮名・55歳)はパート勤務をしながら家計を管理していました。子ども2人はすでに社会人になり、住宅ローンもあと数年で完済予定です。

 

「定年まであと少し。退職金もあるし、老後は何とかなるだろう」

 

誠一さんは、そう考えていました。

 

毎月の小遣いは4万円。家計の細かな支出は妻に任せ、通帳を見ることはほとんどありませんでした。妻が節約していることは知っていましたが、深く聞くことはありませんでした。

 

ある日、会社の同僚と老後資金の話になりました。

 

「うちは定年前に一度、夫婦で全部確認したよ」

 

そう言われた誠一さんは、帰宅後、軽い気持ちで妻に聞きました。

 

「うちの貯金って、今いくらくらいあるんだ?」

 

芳美さんはしばらく黙っていました。そして翌日、通帳を数冊、食卓に並べました。

 

「ちゃんと見てほしい」

 

誠一さんは不安を覚えながら残高を確認しました。そこにあった数字は、想像を大きく下回っていました。

 

老後資金として少なくとも1,500万円はあると思っていたのに、実際に残っていた預貯金は約380万円。生活口座には数十万円しかありませんでした。

 

「この数字、何かの間違いだろ……」

 

誠一さんの声は震えました。芳美さんは、ゆっくり事情を話し始めました。

 

子どもの大学費用が想定以上にかかったこと。遠方で一人暮らしをした長男に仕送りを続けていたこと。さらに、誠一さんの母が体調を崩したとき、施設入居の一時費用や医療費の一部を家計から出していたこと。

 

「言えば、あなたが気にすると思ったの」

 

芳美さんはそう言いました。

 

さらに、数年前には老後資金を増やそうとして、知人に勧められた投資商品に手を出していました。大きな詐欺ではありませんでしたが、元本割れし、数百万円単位の損失が出ていました。

 

誠一さんは言葉を失いました。

 

年収750万円という数字だけを見て、自分たちの家計を分かったつもりになっていたのです。

 

総務省『家計調査(2025年)』によると、二人以上の世帯の消費支出は月30万円台で推移しており、教育費や住居関連費、保険料などを含めると、家計の負担は決して小さくありません。収入が一定程度あっても、支出の中身を把握していなければ、資産形成は思うように進まないことがあります。

 

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