売却して団地へ…「家を持つ安心」より必要だったもの
夫婦は、戸建てを売却することを考え始めました。
最初は清志さんも抵抗がありました。長くローンを払い続け、子どもを育てた家です。簡単に手放せるものではありません。
「この家を売ったら、人生まで否定するみたいで嫌だったんです」
しかし、現実には使っていない部屋が多く、管理は負担になるばかりでした。子どもたちも「無理して住み続ける必要はない」と言いました。
夫婦が選んだのは、比較的家賃の抑えられる団地への住み替えでした。駅やスーパー、病院に近く、階段の少ない低層階の住まいです。部屋数は減りましたが、掃除は楽になり、庭の管理もありません。
「最初は狭いと思いました。でも、暮らしてみると、必要なものはそんなに多くなかった」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の人の住居形態について、「持家(一戸建て)」が79.8%、「持家(分譲マンション等の集合住宅)」が3.2%で、持ち家が8割以上を占めるとされています。
持ち家で暮らす高齢者は多く、それ自体は自然な選択です。一方で、家族構成や体力、収入が変われば、かつて最適だった住まいが負担に変わることもあります。
総務省『令和5年住宅・土地統計調査』では、空き家数は900万2,000戸と過去最多で、空き家率は13.8%となっています。住まいをどう維持し、いつ手放すかは、老後の家計だけでなく、将来の空き家問題にも関わる課題です。
戸建てを売却したことで、夫婦にはまとまった資金が残りました。その一部は今後の医療費や介護費に備え、残りは日々の生活費の補填に回すことにしました。
雅子さんは、引っ越し後しばらくしてこう言いました。
「家を失ったというより、身軽になった感じがする」
清志さんも、今では同じ気持ちだといいます。
「買ったことを全部後悔しているわけじゃありません。子どもたちと暮らした時間は、あの家があったからこそです。でも、老後まで同じ家に住み続けることが正解とは限らないと分かりました」
持ち家は、人生の大きな資産です。しかし、資産であると同時に、管理すべき負担でもあります。
老後に必要なのは、広さや部屋数よりも、生活費を抑えられること、移動しやすいこと、掃除や修繕の負担が少ないことかもしれません。
家を持つ安心と、暮らしやすさは同じではありません。長く住んだ家を手放す決断は簡単ではありませんが、老後の生活を守るためには、「住み続ける」以外の選択肢を考えることも必要なのかもしれません。
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