半年後に直面した現実…介護は「終わる」ものではない
想定外だったのは、費用面でも同じでした。
和子さんの年金は月16万円。施設の基本的な費用は払えていました。しかし、医療機関への受診、薬代、衣類や介護用品の買い足し、理美容代、季節ごとの寝具や肌着など、細かな支出は続きます。
ある月は、施設費用と医療費、日用品代を合わせると年金額を超えました。不足分は、いったん美紀さん夫婦が立て替えることになります。
「数千円、1万円くらいなら仕方ないと思っていました。でも、それが毎月のように続くと、こちらの家計にも響いてくるんです」
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22.2万円に対し、消費支出は約26.4万円で、平均では毎月約4.2万円の不足となっています。年金生活では、日常生活だけでも貯蓄を取り崩す世帯が少なくありません。
和子さんの場合、本人の年金で大部分は賄えていましたが、「施設に入ったから追加負担はない」と言い切れる状況ではありませんでした。
さらに美紀さんを悩ませたのは、夫との温度差でした。
「母さんは施設に入れたんだから、前より楽になっただろう」
夫の何気ない言葉に、美紀さんは言い返せませんでした。確かに在宅介護のころに比べれば、身体的な負担は減っています。夜中に駆けつけることも、排泄介助をすることもなくなりました。
しかし施設からの連絡を受け、必要なものを用意し、入院時の説明を聞き、費用を確認し、義母の状態に気を配る役割は残っています。
介護保険施設を利用する場合、介護サービス費の自己負担のほか、居住費、食費、日常生活費などが必要になります。所得の低い人には負担軽減制度もありますが、すべての支出がなくなるわけではありません。
半年後、美紀さんは夫に家計簿を見せました。
「お義母さんのこと、私だけで抱えるのはもう無理。お金のことも、施設とのやり取りも、ちゃんと一緒に見てほしい」
その後、夫婦は役割を見直しました。施設からの連絡先は夫にも共有し、月に一度は費用を確認する。面会も美紀さんだけに任せず、夫が行く日を決める。突発的な医療費に備えて、義母名義の預金残高も定期的に確認するようにしました。
特養への入居は、家族にとって大きな救いです。在宅介護の限界を支える重要な選択肢であることは間違いありません。
ただし、それは介護が完全に終わることを意味しません。家族の負担は、身体的な介助から、判断、手続き、費用管理、精神的な見守りへと形を変えて続いていきます。
施設入居はゴールではなく、介護の新しい段階です。家族の誰か一人が抱え込まないよう、費用、連絡、面会、緊急時の対応をあらかじめ分けておくことが必要なのかもしれません。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
