一人娘からの絶縁メール
老後は一歩一歩、穏やかに過ぎていくものと信じて疑わなかった日常から、まるで崖から突き落とされたかのような不安に苛まれる毎日が始まりました。そんなAさんに、さらなる追い打ちをかける出来事が起こります。事情を話した一人娘から、見捨てられるようなメールが届いたのです。
「安易に保証人になったお父さんが悪い。これから孫(娘の子ども)にだって教育費がかかるのに、まだ叔父さんが借金していて私のところにまで取り立てが来たらどうするの? 不安で仕方ありません。悪いけれど、私はこの先一生、会うつもりはありません」
法的には、娘に父親の連帯保証債務を引き継ぐ義務はありません。しかし、突然の事態にパニックを起こし、精神的な恐怖に耐えかねた娘は、父親を責め立てて絶縁を選んでしまったようです。
市営団地で妻と思い出を語る毎日
老後に破産や生活困窮へ陥るケースとして、「自分は蓄えができているから大丈夫」と過信していても、周囲の想定外のトラブルに巻き込まれてしまう例は少なくありません。Aさんのように、身内に多額のお金を援助したり、保証人となってしまったりした結果、回収不能となって共倒れになるケースは後を絶たないのです。
そのほかにも、退職後にシニア起業を行って失敗をするケースや、現役時代の高い生活水準を落とせないケースもありますが、予期せぬ病気やケガによって過度な介護費・医療費が重なり、家計が破綻へと向かうこともよくある現実です。
Aさんは、弟の借金を肩代わりさせられたことで、孤独と絶望の淵へと立たされることになりました。いまや、楽しかった過去の思い出だけが、Aさんの心のなかで美化されて残る唯一の救いとなっています。
四畳半の市営団地の一室で、妻とともに、かつて購入した庭付き一戸建てのリビングを思い出しています。娘が家を出る前の、家族3人で楽しく過ごしていたあの素晴らしい日々、可愛い孫が膝に飛び乗ってくる喜び、「老後は安泰だから、毎年ご褒美に旅行へ行こう」と語り合ったときの心の余裕──。何度もその思い出を語り返すのは、胸を締め付けるような現在の不安と絶望から、少しでも逃れようとしているからなのかもしれません。
現在、Aさんは68歳を迎えました。65歳で受け取りだした夫婦の年金280万円(月額23万円)のみで質素倹約を徹底して暮らしています。「あなたがいままで頑張って働いてきてくれたからこそ、年金は平均的な金額がもらえる。それだけが有難い」と妻は少しだけ前向きです。
それでも、病気になったり介護が必要になったりしたときのことを考えると、不安は尽きません。毎月の年金を少しでも残し、貯蓄に回そうと、節約生活を続けています。
たった一人の弟だからと安易な行動をとってしまったAさんの代償は、あまりにも大きすぎるものでした。つつがなくこれからの余生を過ごすためには、過去の思い出を美化して現実逃避することだけでなく、もう一度しっかりと前を向き、現在の足元から生涯設計を泥臭く立て直してほしいと、願うばかりです。
三藤 桂子
合同会社ミコサポ
代表
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