「もう一緒には暮らせない」…妻が下した決断
退職から約1年たったある日のこと。夕食後、真由美さんは静かにこう切り出しました。
「話があるの」
いつもと変わらない口調でしたが、その表情はどこか張りつめていたといいます。
「もう、一緒には暮らせないと思う」
その一言に、浩一さんは言葉を失いました。
「冗談かと思いました。でも、妻は真剣でした」
話を聞くと、真由美さんは以前から強いストレスを感じていたといいます。
「“一日中家にいられるのがつらい”と言われました。そんなふうに思われていたなんて、想像もしていませんでした」
さらに、生活費に対する不安も重なっていました。
「退職金は有限なのに、このまま使い続けたらどうなるのか、ずっと不安だったそうです。でも、それをうまく伝えられなかったと」
厚生労働省『2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況』では、「生活が苦しい」と感じる世帯は約6割にのぼり、収入水準にかかわらず将来不安を抱える人が多いことが示されています。
真由美さんは、すでに別居を前提に準備を進めていました。
「しばらく距離を置きたい。それが無理なら、このまま一緒にいるのは難しい」
浩一さんはそのとき初めて、自分が見ていた“理想の老後”が、妻にとっては違うものだったことに気づいたといいます。
現在、二人は別居しています。離婚はしていないものの、生活は完全に分かれている状態です。
「もっと早く話し合っていれば、違った形になっていたのかもしれません。でも気づいたときには、もう戻れないところまで来ていました」
退職は、人生の区切りであると同時に、夫婦関係の再構築が求められるタイミングでもあります。時間の使い方、お金の考え方、距離感――そのどれもが変わるなかで、これまで通りの関係を続けることは簡単ではありません。
「おしどり夫婦」と呼ばれていた関係も、環境が変われば姿を変えることがあります。老後の安心は資産の額だけではなく、日々の積み重ねと対話の有無によっても大きく左右されるのかもしれません。
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