「この子のため」と信じていた…中学受験にのめり込んだ父
会社員の直樹さん(仮名・47歳)は、IT企業に勤め、年収は約900万円。妻の美香さん(仮名・45歳)と、小学6年生の息子・悠斗くん(仮名)と暮らしています。
中学受験を意識し始めたのは、小学4年生のころでした。
「公立が悪いというより、息子にはもっと合う環境があるんじゃないかと思ったんです」
最初は軽い気持ちでした。塾の体験授業に行くと、悠斗くんも「楽しかった」と話しました。直樹さんはそれを聞いて、本格的に受験を考えるようになります。
塾代、模試代、講習費。学年が上がるにつれ、費用は大きくなっていきました。
文部科学省『令和3年度 子供の学習費調査』によると、私立中学校の学習費総額は年間で140万円を超えています。受験前の塾代や講習費も含めると、家庭の負担はさらに重くなります。
それでも直樹さんは、「教育への投資だ」と考えていました。
「自分が若いころにもっと勉強しておけばよかった、という思いもありました」
成績が上がると嬉しくなり、下がると不安になる。模試の偏差値、志望校判定、過去問の点数。家族の会話は、いつの間にか受験の話ばかりになっていきました。
悠斗くんがゲームをしていると、直樹さんは言いました。
「今だけ頑張れば、あとで楽になるから」
その言葉を、何度も繰り返していました。
しかし、悠斗くんの表情は少しずつ変わっていきました。以前は好きだったサッカーにも行きたがらなくなり、食事中も口数が減りました。夜遅くまで机に向かうものの、ノートは進んでいないこともありました。
「集中しなさい」
直樹さんはそう注意しました。一方、美香さんは不安を感じていました。
「この子、本当に大丈夫かな」
直樹さんは、その言葉を受け流しました。
「ここで緩めたら、今までの努力が無駄になる」
その時点で、受験はもう、息子のためだけのものではなくなっていたのかもしれません。
