「来てくれるのはうれしい。でも、そのたびにお金が出ていく」
団地で一人暮らしをする和代さん(仮名・69歳)は、国民年金とわずかな遺族年金を合わせて、月10万円ほどで暮らしています。夫を亡くしたのは6年前です。家賃はかからないものの、管理費や固定資産税、光熱費、食費、通院代を払うと、月末にはほとんど手元に残らないといいます。
「若い頃は、老後になれば支出も減ると思っていました。でも実際には、食べるものも値上がりするし、病院にも行くし、思っていたよりずっと苦しいです」
和代さんには、長女の息子である孫の翔くん(仮名・8歳)がいます。娘一家は同じ県内に住んでおり、月に一度ほど、土日に遊びに来るのが恒例になっていました。
「来るって聞くと、やっぱりうれしいんです。部屋も片づけて、お菓子も買って、何か喜びそうなものを用意しておこうかなって思う。でも、そのあと必ず電卓をたたくことになるんです」
翔くんは元気盛りで、祖母の家に来るとすぐに「おばあちゃん、ジュースある?」「お昼、ハンバーグがいい」と無邪気に言います。和代さんも、できるだけ応えてやりたいと思ってきました。
「孫にしてみれば、ただ遊びに来ているだけなんです。悪気なんてもちろんない。でも、来るたびに食費も増えるし、どこかへ連れて行けば出費もかさみます」
その日も、娘から「日曜、お昼前に寄るね」と連絡がありました。和代さんは近所のスーパーへ行き、特売のひき肉とパン粉、ジュース、お菓子を買い込みました。合計は2,000円を少し超えました。
「たったそれだけなんですけど、私にとっては軽い金額じゃないんです」
さらに、その日はポチ袋も机の上に用意していました。中に入れたのは5,000円。新学期が始まり、「がんばっているから、お小遣いをあげよう」と思ったのです。
「5,000円でも、私には結構きついです」
娘一家が来る直前、和代さんはポチ袋を何度も見つめていたといいます。
「うれしいはずなのに、ため息が出るんです。こんなふうに思うなんて、ひどい祖母だなって」
一家の帰り際、バッグからポチ袋を取り出しかけて、手が止まりました。
「今月、病院代がもう一度ある。電気代の引き落としもある。そう考えたら、急に怖くなってしまって」
結局、その日は渡せませんでした。ポチ袋は、居間のテーブルの引き出しにそっと戻しました。
