「ゆとりある老後」のはずが…地方移住に潜むリスク
神奈川県内で長年会社員として働いてきた隆一さん(仮名・62歳)は、3年前、妻のひと言をきっかけに地方移住を決断しました。
「“のんびり畑でもやろうよ”って言われて。定年も見えてきていたし、いいタイミングかなと思ったんです」
当時、隆一さんは年収700万円台後半。退職金も見込めており、老後資金にもある程度の見通しが立っていました。都市部で賃貸暮らしを続けるより、地方で住居費を抑えた方が合理的だと考えたのです。
「家賃がなくなれば、それだけで月10万円近く浮く計算でした。生活はかなり楽になると思っていました」
夫婦が選んだのは、関東近郊の地方都市。築25年の中古戸建を900万円で購入し、小さな畑付きの生活を始めました。移住直後は、まさに理想通りの日々だったといいます。
「朝起きて畑に出て、昼はゆっくりご飯を食べて、夕方には散歩する。都会にいたときとは時間の流れが全然違いました」
しかし、その生活は長くは続きませんでした。最初の違和感は、移住から半年ほど経った頃でした。
「車がないと生活できないんです。分かってはいたんですけど、ここまでとは思っていなくて」
最寄りのスーパーまで車で15分、病院までは20分以上。公共交通機関は1時間に1本あるかないかという状況でした。結果的に、夫婦で1台ずつ車を持つことになり、維持費は想定以上に膨らみました。
「ガソリン代もそうですが、保険や車検、修理費がじわじわ効いてきました。都会にいたときより、むしろ出費は増えている感覚でした」
さらに、築年数の経った住宅にも問題がありました。購入当初は気にならなかった設備の老朽化が、次々と表面化したのです。
「給湯器が壊れて、交換に30万円近くかかりました。そのあと屋根の補修も必要になって…」
こうした出費は、当初の資金計画には織り込まれていませんでした。
総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、二人以上の世帯の消費支出は月31万4,001円。住居費が下がっても、その他の支出が増えれば家計全体の負担は軽くなりません。
加えて、地域との関係にも戸惑いがありました。
「ご近所付き合いが濃いんです。最初はありがたいと思っていたんですが、だんだん距離感が難しくなってきて」
自治会活動や地域行事への参加も求められ、断りづらい空気があったといいます。都会では感じなかった“見えない負担”が、日常のなかで積み重なっていきました。
そして決定的だったのは、妻の体調不良でした。
「腰を痛めてしまって、畑仕事ができなくなったんです。あれが一番大きかったですね」
病院に通うにも車での移動が必要で、付き添いも含めて負担は増える一方でした。
