「頼る側」と「頼られる側」のすれ違い
翌日、ようやく折り返しの連絡がありました。
「ごめん、仕事で出られなかった。何回もかけてくるの、ちょっと困るんだけど」
電話越しの娘の言葉に、邦子さんは一瞬言葉を失いました。
「そんなつもりじゃなかったのに…。ただ、話を聞いてほしかっただけだったんです」
一方で、恵理さんにも事情がありました。
「仕事中に何度も着信があると、正直焦るんです。緊急かと思って。でも、出てみると急ぎじゃない内容で…」
共働きで子育て中の恵理さんにとって、日中の時間は限られています。突発的な連絡に対応する余裕は、決して多くありません。
「母のことは気にしています。でも、全部に応えるのは難しいんです」
こうした“すれ違い”は、珍しいものではありません。内閣府『令和7年版 高齢社会白書』でも、高齢者の単身世帯は増加傾向にあり、家族との関係性や支援の在り方が課題として指摘されています。
「電話がつながらなかったとき、自分がすごく一人なんだと感じてしまって…。気づいたら泣いていました」
その後、地域包括支援センターに相談し、生活上の不安について専門職に話を聞いてもらうようになりました。
「誰かに話せる場所があるだけで、少し安心できるんです」
一方の恵理さんも、母との距離感について考えるようになったといいます。
「突き放したいわけじゃないんです。ただ、お互いに無理のない関わり方を見つけないといけないのかなって」
高齢者にとって「頼ること」は生きるための手段であり、家族にとっては「どこまで応えるか」の問題でもあります。そのバランスは一様ではなく、状況によって大きく変わります。
「迷惑をかけたくない。でも、誰かに頼りたい」
邦子さんのその思いは、多くの高齢者が抱える共通の感情なのかもしれません。家族だけに頼らない支援の仕組みと、無理のない関係性をどう築くか――その問いは、私たち一人ひとりにも向けられています。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
